(※写真はイメージです/PIXTA)

2024年、米国会計基準を定めるFASBがビットコインを「公正価値で評価すべき資産」と認定したことで、暗号資産を取り巻く税務・会計の領域は大きな転機を迎えた。企業の財務戦略に組み込まれつつある暗号資産は、富裕層の資産防衛や相続対策の手段としても再注目されるが、日本の税制は旧態依然のまま、世界的な動向から取り残されつつあるようだ。2027年の金融商品課税見直しを控え、「暗号資産×税制」を見据えた戦略の複雑化が想定されるが、富裕層・投資家はどのように備えるべきか。※本連載は、THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班が担当する。

ゴールドオンライン新書最新刊、Amazonにて好評発売中! 

『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【基本編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)

『富裕層が知っておきたい世界の税制【カリブ海、欧州編】』
矢内一好 (著)+ゴールドオンライン (編集)

『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【実践編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)

シリーズ既刊本も好評発売中 → 紹介ページはコチラ!

暗号資産を「事業資産」へ転換させる制度的革命

2024年、米国の会計基準を定めるFASB(財務会計基準審議会)は、ビットコインなどの暗号資産について「公正価値で評価すべき資産」とする会計基準を導入した。これにより、従来は減損処理による損失しか認められなかった暗号資産において、価格上昇に伴う含み益も財務諸表に計上できるようになった。結果として、企業にとって暗号資産を保有するインセンティブが高まり、ビットコインが「準現金」的な資産としての位置付けを強めている。

 

暗号資産に精通する森和孝弁護士(One Asia法律事務所)は、こうした制度変更を次のように評価する。

 

「FASBによる公正価値評価の導入は、暗号資産を会計上『投機的資産』から『事業資産』へと転換させる制度的革命です。この変更により、企業は暗号資産を活用した財務レバレッジ効果を享受できるようになり、資本市場における暗号資産の位置付けと機能は質的に向上しました。マイクロストラテジーの事例は、こうした制度変更が企業価値最大化の戦略として実際に機能し得ることを示す好例です」

 

マイクロストラテジー(MicroStrategy)は、2020年8月以降に積極的なビットコイン投資を行い、現在では世界有数の保有量を誇る企業である。

ビットコインを用いた不動産購入事例、米国やドバイを中心に増加

こうした動きは企業だけでなく、富裕層個人にも波及している。近年では、ビットコインを用いた不動産購入の事例が米国やドバイを中心に増加。2023年には、マイアミの高級コンドミニアムが1,000BTC(当時約45億円)で売却されたことが報じられ、話題となった。

 

米国ではすでに、ビットコインを資産保全や相続対策の一手段として位置付ける動きが本格化している。

ビットコイン、日本の富裕層の多くが国内取引を敬遠する理由

一方、日本の税制はこうした国際的な潮流から取り残されている。

 

現行制度では、ビットコインの売却益や決済による差益は「雑所得」として総合課税の対象となり、住民税を含めた最高税率は55%に達する。さらに、損益通算は認められず、赤字の翌年繰越も不可とされている。このため、多くの富裕層が国内取引を敬遠し、海外法人を通じた取引など、節税のためのスキームを模索する実情がある。

 

森弁護士は、現行制度の構造的な問題点を次のように指摘する。

 

「日本の制度は、国際的にも極めて厳しい課税環境を形成しており、深刻な構造的欠陥を抱えています。55%の総合課税はOECD諸国と比べても突出しており、損益通算の制限や繰越控除の不認可が重なることで、リスク投資に対する実質的な懲罰課税となっています。特に相続時には、相続税法上の時価評価と所得税法上の取得費控除の間に大きな乖離が生じ、実効税率が100%を超える『没収的課税』が発生する深刻な問題です」

2027年税制改正の注意点

注目されるのは、2027年に予定されている金融商品課税の抜本的見直しだ。

 

金融庁は「資産所得倍増プラン」の一環として、NISA制度の恒久化・拡充に続き、投資課税のあり方全体の見直しに着手。そのなかには暗号資産に対する課税方式も含まれる見通しで、与党税制調査会では「分離課税20%への一本化」を求める声が上がっている。来年度の税制改正大綱に向け、議論は本格化する。

 

ただし森弁護士は、以下の点に注意が必要だと語る。

 

「2027年の税制改正においては、分離課税の対象が『国内の取引所に上場している銘柄』に限定される可能性があります。金融商品取引法の域外適用には限界があり、海外発行トークンや分散型プロトコルへの対応が現状では不十分です。とはいえ、今回の改正はあくまで第一歩に過ぎません。今後の政省令やガイドラインの整備によって、多様なトークンや取引形態を包含できる柔軟な制度設計が期待されます」

国外転出時課税の対象に含まれる可能性も?

加えて森弁護士は、資産防衛や国際的なタックス・プランニングの観点から、「国外転出時課税制度」の影響にも警鐘を鳴らす。

 

「暗号資産が有価証券類似の金融商品として正式に位置付けられると、国外転出時課税の対象に含まれる可能性があります。これにより、これまで活用されてきた一部のタックス・プランニング手法が法的に封じられることになり得ます。2027年以降を見据えた慎重な対応と準備が必要です」

今後は「新たな金融商品」の地位を確立か

2024年4月には、東京証券取引所がデジタル証券(セキュリティ・トークン)の取り扱いを開始。ブロックチェーン技術と暗号資産を合法的に活用するための制度インフラが、国内でも着実に整備されつつある。

 

現時点では投機的な資産と見なされがちなビットコインも、今後は「価値保存性」と「価格上昇によるリターン」が両立する新たな金融商品としての地位を確立する可能性がある。

 

森弁護士は、

 

「ビットコインは、2025年5月の米国債格下げに象徴される法定通貨不安定期において、国家信用に依存しない価値保存手段としての有用性を改めて示しました。ただし、その高いボラティリティを踏まえると、株式・債券・金・不動産など従来型の資産との適切な分散投資が重要です」

 

とし、リスク分散を前提とした戦略的アプローチこそ、激変期における合理的かつ実効的な資産防衛策であると指摘する。

富裕層が備えるべき「2027年の壁」

富裕層にとって、いま最も重要なのは「2027年までに資産の多様化と税制シミュレーションを完了させておくこと」だ。具体的には、

 

●法人によるビットコイン保有の是非

●海外トラストや国外ウォレットとの法的整合性

●日本居住を継続した場合の課税インパクト

 

などである。これら複数のシナリオを見据えた、戦略的なアセットプランニングの重要性が増している。

 

2020年代後半、「暗号資産×不動産×税制」のトライアングルは、富の移転と形成をめぐる中心的テーマとなっていくだろう。

 

 

THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班

カインドネスシリーズを展開するハウスリンクホームの「資料請求」詳細はこちらです
川柳コンテストの詳細はコチラです アパート経営オンラインはこちらです。 富裕層のためのセミナー情報、詳細はこちらです 富裕層のための会員組織「カメハメハ倶楽部」の詳細はこちらです 不動産小口化商品の情報サイト「不動産小口化商品ナビ」はこちらです 特設サイト「社長・院長のためのDXナビ」はこちらです オリックス銀行が展開する不動産投資情報サイト「manabu不動産投資」はこちらです 一人でも多くの読者に学びの場を提供する情報サイト「話題の本.com」はこちらです THE GOLD ONLINEへの広告掲載について、詳細はこちらです

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録