ゴールドオンライン新書最新刊、Amazonにて好評発売中!
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【基本編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
『富裕層が知っておきたい世界の税制【カリブ海、欧州編】』
矢内一好 (著)+ゴールドオンライン (編集)
『司法書士が全部教える 「一人一法人」時代の会社の作り方【実践編】』
加陽麻里布(著)+ゴールドオンライン (編集)
シリーズ既刊本も好評発売中 → 紹介ページはコチラ!
夫の死後、通帳をみて愕然とする妻
66歳のとき、崇さんの肺に影がみつかる。長年の喫煙が原因かもしれない。発見が遅れ、手術はできず、2年間の闘病の末に亡くなった。
崇さんは「高額療養費制度があるから医療保険は不要」という知人の話を鵜呑みにし、民間の保険には一切加入していなかった。そのため、2年間の治療費の自己負担分は、残っていた500万円の貯蓄から支払われ、彼が亡くなったとき、通帳に残っていたのはわずか50万円。
「50万円よ。退職金だけでも2,000万円はあったはずなのに。私まで心臓が止まるかと思ったわ」奈美子さんは娘たちに嘆いた。
わずかなお金で葬儀を執り行うしかない。葬儀社に相談すると、通夜や告別式を行わない「火葬式」を勧められた。娘2人と3人だけで、誰にも知らせず静かに夫を見送った。「お父さん、友達が多かったのに……。あまりに寂しいお葬式ね」と娘たちが漏らした言葉が、奈美子さんの胸に突き刺さる。
さらに、お墓の準備もしていなかったため、やむなく崇さんの両親が眠るお墓に納骨した。
問題は、奈美子さんのこれからの生活である。貯蓄ゼロの状態で、彼女はどう生きていけばよいのか。
生活保護の支給額とほぼ同じ額に…夫の死後の収入
奈美子さんの今後の収入源は、自身の国民年金(老齢基礎年金月額およそ6万5,000円)と遺族厚生年金(月額およそ6万5,000円)の合計月額13万円のみとなる。
この金額は、地域や状況によるが、生活扶助と住宅扶助を足し合わせた生活保護の支給額とほぼ同水準。最低限の生活はできても、余裕はまったくない。しかも、奈美子さんには生活費以外にも多くの支出が見込まれた。
自宅は築40年を超え、固定資産税や火災保険料に加え、夫が退職直後にリフォームを一度行っているとはいえ、屋根や水回りなどの修繕費がいつまた発生するかわからない。売却して高齢者向け住宅へ移ることも考えたが、自宅が「再建築不可」の旗竿地だったため、買い手がつかず売却は絶望的であった。リースバックなどの制度も利用はできない。
娘たちと相談した結果、長女が家の維持費を一部負担してくれることになったが、次女は家庭の事情で経済的な援助は難しい状況だった。もし奈美子さんが亡くなっても、この家をどうするのか、という問題も残る。
数年前まで、夫が悠々自適な生活を送っていたことが嘘のような現実である。しかし、仮に崇さんが浪費も詐欺被害もなかったとしても、専業主婦だった奈美子さんの生活が安泰だったとは限らない。夫の死後、妻の生活水準が大きく下がるリスクは、多くの家庭に潜んでいるのだ。
