(※写真はイメージです/PIXTA)

「物価が安く、ゆるく暮らせる」──そんなSNS発のイメージから、東南アジア就職に憧れる若者が増えています。中でもマレーシアは人気の移住先ですが、現地採用として働く実態は想像以上にシビアです。就労ビザの不安定さ、医療や行政インフラの未整備、可処分所得の低さ…。海外で働くことは決して“楽”ではなく、“戦略”が必要な選択です。本記事では、マレーシア現地採用のリアルと、覚悟と準備の重要性について解説します。

「ゆるい海外生活」は本当に可能か?

近年、SNSやYouTubeで頻繁に目にする「東南アジアでのゆるい海外生活」。

 

その多くは「物価が安く、月収20万円でも快適に暮らせる」というイメージを広めてきました。特にマレーシアは、治安やインフラの面でも他の東南アジア諸国に比べて安定感があることから、海外移住先として人気が高まっています。

 

しかし、実際に現地採用として働き、生活を成り立たせるとなると、その理想像とのギャップが見えてきます。

「物価が安いから豊かに暮らせる」というイメージですが、実態はどうなのでしょうか?

「物価の安さ」だけでは語れない現地採用

マレーシアにおける日本人の現地採用は、多くが外資系BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)企業や、日系企業の現地法人でのカスタマーサポート業務などです。給与水準は職種や経験により異なるものの、おおよそ月収6,000〜10,000リンギット(日本円で約20万〜33万円)が相場となっています。

 

「物価の安い国でこの水準の収入があれば、相当な余裕があるのでは?」と期待する人も多いでしょう。しかし、実際にはそこから税金や保険料が控除され、手元に残る“可処分所得”はぐっと減ります。

 

例えば、所得税のほか、企業によっては医療保険料を自己負担するケースもあり、さらに就労ビザの更新費用などが自己負担となることもあります。初任給が6,000リンギットであれば、手取りベースで実際に自由に使えるのは5,000リンギット(約17万円)前後にとどまるのが一般的です。
 

この収入での生活を想定すると、住居はクアラルンプール中心地のワンルームで月2,000リンギット程度、少し郊外であれば1,500リンギット台からシェア物件が選択肢になります。

 

食費についても、現地の屋台で1食10リンギットほどに抑えることはできますが、味や衛生面を気にして日本食やカフェでの外食が増えれば、日本とほぼ同じかそれ以上の出費になることもあります。通信費・光熱費もさほど安くはなく、交通手段としてはマレーシア都市鉄道MRTや配車アプリ「Grab」の併用が基本で、月数百リンギット程度はかかります。

 

加えて、医療面でも安心とは言えません。マレーシアの私立病院は高額で、企業の医療保険が十分でない場合、ちょっとした通院でも出費がかさみます。さらに、日本と異なり行政手続きの不透明さや医療水準への不安、そして最大のネックとして「ビザが企業依存である」という不安定さがついてまわります。つまり、一度職を失えば、その瞬間に滞在資格まで失うリスクがあるのです。

 

このように総合的に見ていくと、「東南アジアは物価が安いから月収20万円で貯金もできる」という幻想は、もはやインフレが進んだ現在のマレーシアには当てはまりません。質素な生活を心がければ何とかやりくりはできますが、日本で一人暮らしをしていたときと可処分所得の感覚は大差なく、むしろ医療や行政、ビザリスクなど“お金以外の不安”が大きい分、精神的なゆとりは日本より少ないとも言えます。

 

東南アジアでの現地採用生活は、確かに異文化や語学、国際的な環境に触れる貴重な経験にはなりますが、そこに「快適さ」や「経済的余裕」を求めるのは危険です。海外だからこそ豊か、というよりは、むしろ海外だからこそ脆く、不安定な一面がある─それが、現地採用で働く日本人のリアルな日常です。

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