海外資産は「隠すもの」ではない
「海外に資産を持っていますが、日本の税務署にバレますか?」
これは富裕層や経営者から特に多く寄せられる質問です。コロナ禍以降、海外不動産や金融商品に目を向ける人が増え、実際に運用を始めるケースが広がりました。
一方で、SNSなどで「CRS」「CFC」といった専門用語だけが一人歩きし、「海外資産を持つだけで脱税と疑われるのではないか」と不安を抱える人も少なくありません。
結論として、海外資産の保有自体は違法ではありません。ただし、適切な申告や管理を怠ると税務上の問題が発生する可能性があります。
「CRS」と「CFC」海外資産の透明化と課税防止の仕組み
国境を越えた資産保有や法人設立は、もはや一部の特権階層に限られる話ではなくなりました。グローバルな事業展開や資産分散を図るうえで、海外不動産や法人を活用することは極めて現実的な選択肢です。
こうした国際的な資産移動を監視し、租税回避を防止するために整備されたのが、CRS(共通報告基準)とCFC(外国子会社合算税制)という二大制度です。
CRSは、OECDが定めた金融情報の自動的情報交換制度。日本を含む100ヵ国以上が加盟しており、非居住者の銀行口座情報は、その国の税務当局から自動的に日本の国税庁へ送られる仕組みです。たとえば、シンガポールの銀行にある日本人名義の口座残高や利息は、すでに国税庁に届いている可能性が高いということです。
一方、CFC制度は、日本居住者が実質的に支配している海外法人について、一定の条件を満たすとその所得を日本の課税対象として合算する制度です。対象は実効税率が30%未満の国・地域。香港、シンガポール、ドバイ、ラブアンなど多くの人気タックスプランニング先が該当します。
つまり、「海外だからバレない」「法人化すれば税金逃れできる」という認識はすでに通用しない時代になっています。昨今は税務当局も積極的にAIを導入しており、自動的に海外の金融情報が共有されているのです。
海外資産は「隠す」ものではない──「合法性を担保する構造」
大切なのは、「隠す」のではなく「見せても問題のない構造」を作ることです。
海外資産や海外法人の運用が問題になるのは、それが“実体を伴わない節税スキーム”とみなされる場合です。逆にいえば、正当な事業目的や投資戦略に基づき、かつ実体が伴っていれば、合法的に構築された海外資産構造として扱われます。
さらに、日本には外国税額控除制度があります。たとえばアメリカで不動産収益を上げ、その所得に対して現地で課税された場合、日本の確定申告時にその分を控除することで、実質的な二重課税を回避できます。
海外での税務処理や口座管理、会計処理をしっかりと行い、日本側でも透明性の高い申告を行うことで、むしろリスクを回避しやすくなります。