(※画像はイメージです/PIXTA)

日本の財政が長年問題を抱えていることは、多くのみなさんがご存じでしょう。多額の財政赤字は一体なぜ起こったのか、これからの日本に必要な対策とは。本記事では、東京大学名誉教授・井堀利宏氏の著書『知らなかったでは済まされない経済の話』(高橋書店)より一部抜粋・編集し、日本の財政の今について解説します。

登場人物

佐藤翔太…28歳。年収500万円くらい。大学を卒業後に上京。東京にある出版社に入社し、現在は編集者として働いている。企画が中々通らず、日々苦戦中。

 

井堀教授…70代の経済学者。東京大学の名誉教授。知的で鋭い目つきが特徴。毎朝カフェで新聞を読んでいる。多数の著書を執筆しており、受賞・受章も多数ある。

世界最悪レベルの財政赤字

佐藤:日本の財政赤字が世界最悪レベルって聞きますが、なぜこんなに累積したんですか?

 

井堀:複合的な理由があってね。まず、高度成長期が終わった1970年代後半以降、経済成長率が鈍化して税収が伸び悩んだ。GDPが伸びなければ、所得税や法人税も思うように増えないからね。

 

佐藤:たしかに、経済が伸びなきゃ税収自体も大きくならないわけですね。そこに少子高齢化で社会保障費が増えていく……。

 

井堀:そう。高齢者人口が増えれば医療費や年金給付が拡大する。さらに1990年代、景気対策で公共投資を積極的に増やしたり、2020年以降、コロナ対応で補正予算を連発したりして歳出が膨らんだ。一方で、税収は伸びきらないから、その差を公債発行で埋め続けた結果、財政赤字が累増している。

 

佐藤:要するに歳入は増えず歳出ばかり増えて、足りないぶんを借金してきたってことですね。

日本は財政破綻する?

 

佐藤:ここまで財政赤字が増えていると、日本は財政破綻するなんて言う人もいますよね?

 

井堀:財政破綻の可能性は懸念されているよ。財政破綻の可能性を考えるとき、公債残高(=国の借金総額)とGDPの比率がよく使われるんだ。もしこの比率がどんどん上がり続けるようなら、将来の税収が借金返済に追いつかず破綻とみなされてもおかしくない。

 

佐藤:なるほど。逆に、GDPが伸びて借金が増えないなら比率は下がるから、いずれ返せるって判断されるんですね。

 

井堀:そう。ただ、日本の場合は公債残高対GDP比が200%を超えていて、先進国の中でも突出して高い。この比率が200%を超えているのは、先進諸国では日本だけ。しかも上昇傾向にあるから、ずっと放置しているといつかは債務不履行になる。

 

佐藤:公債残高の対GDP比がどんどん上がっているって、そもそも何が原因なんですか?

 

井堀:ポイントは基礎的財政収支(プライマリーバランス)と金利とGDP成長率の差額だね。理論的には、ここが公債残高対GDP比の動向に影響している。

 

佐藤:基礎的財政収支……?

 

井堀:政策的な経費(税金で賄うべき支出)と税収の差のことだね。要するに支出が税収を上回っているから、新たに借金をしている状態ってこと。だから財政状況は悪化して、公債残高対GDP比は上昇する。もう1つの金利とGDP成長率の差は、もし金利が成長率より高ければ、国債の利払い費が税収の増加ペースを超えてしまうから、借金返済が追いつかなくなるんだ。

 

佐藤:日本は低金利だから、金利と成長率の差はあまり問題になってないんですか?

 

井堀:そう。金利と成長率の差はほぼゼロに近いから、そっちの要因は小さい。ただ、基礎的財政収支が長年赤字のままだから、そこが一番の問題なんだよ。政策的経費を税収で賄いきれていない状況が続けば、自然と公債残高対GDP比も上がってしまう。

 

佐藤:つまり、支出と税収のバランスが悪いからこそ、日本の財政状況がどんどん悪化しているわけですね……。

 

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次ページこの先、財政の健全化は可能なのか?

本連載は、井堀利宏氏の著書『知らなかったでは済まされない経済の話』(高橋書店)より一部を抜粋・編集したものです。

知らなかったでは済まされない経済の話

知らなかったでは済まされない経済の話

井堀 利宏

高橋書店

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