登場人物
佐藤翔…28歳。年収500万円くらい。大学を卒業後に上京。東京にある出版社に入社し、現在は編集者として働いている。企画が中々通らず、日々苦戦中。
井堀教授…70代の経済学者。東京大学の名誉教授。知的で鋭い目つきが特徴。毎朝カフェで新聞を読んでいる。多数の著書を執筆しており、受賞・受章も多数ある。
最低賃金はどう決められているのか
佐藤:最低賃金ってどう決まっているんですか? 政府が勝手に決めるわけじゃないですよね?
井堀:たしかに市場経済では賃金は企業と労働者の交渉で決まるけど、最低賃金という下限だけは法律で定められている。これは最低賃金法に基づいて、各都道府県の実情を踏まえながら決めるんだよ。つまり、企業は労働者に対して最低賃金以上の賃金を支払わなきゃならない義務があるわけだ。
佐藤:都道府県ごとに金額が違う理由は、地域によって物価や経済状況が違うからですか?
井堀:そうだね。各都道府県に地方最低賃金審議会ってのがあって、そこに労働者代表、使用者代表、公益代表が同数参加している。中央最低賃金審議会が全国的な目安を示すと、各地方審議会が地域の実情を踏まえて議論して、この額がいいんじゃないか、と答申する。最終的には都道府県労働局長が決定するんだ。
佐藤:アルバイトやパート、臨時や嘱託の人なんかもみんな最低賃金が適用されるんですね?
井堀:そう。雇用形態や呼称に関係なく、その都道府県内で働く全労働者が対象になる。企業は最低賃金を下回る額を払ったら違法になるし、これは賃金のセーフティーネットとしての役割があるんだよ。
佐藤:最近、最低賃金がじわじわ上がっているって話を聞きますが、今大体どのくらいになっているんでしょう?
井堀:2024年の改定額だと、東京都が1,163円で全国トップ。神奈川県が1,162円、大阪府が1,114円で、16の都道府県で1,000円を超えたよ。最低額は秋田県の951円で、今回の改定で全国すべてが950円以上になった。
佐藤:なるほど。最低賃金を上げることでインフレの中でも実質賃金を維持しようとする狙いがあるわけですね。でも、企業が人件費をカバーできなくなるリスクもありませんか?
井堀:そうだね。最低賃金を大幅に引き上げると、特に中小企業が耐えきれずに雇用を縮小したり、倒産したりするケースも考えられる。だから高ければ高いほどいいって単純には言えない。結局、賃金アップに見合うだけの生産性向上や経済の活性化が同時に起きないと、うまくいかない。
佐藤:今はインフレが続いてて、物価が上がりつつあるけど、賃金もそれ以上に上がらないと生活は苦しくなりますよね……。
井堀:まさにそこが問題。政府は最低賃金を将来的には1,500円ほどまで上げたい意向を示しているけど、同時に企業の生産性や経済全体の成長をどう確保するかがカギになる。インフレの中で実質賃金が落ち込まないためには、賃上げが物価上昇以上のペースで進む必要があるからね。

