(※画像はイメージです/PIXTA)

日本経済は低迷が続いていますが、その原因はどこにあるのでしょうか。また、成長を続けるアメリカとの違いは何なのでしょうか。本記事では、東京大学名誉教授・井堀利宏氏の著書『知らなかったでは済まされない経済の話』(高橋書店)より一部抜粋・編集し、日本経済の問題ついてアメリカや中国と比較しながら解説します。

登場人物

佐藤翔太…28歳。年収500万円くらい。大学を卒業後に上京。東京にある出版社に入社し、現在は編集者として働いている。企画が中々通らず、日々苦戦中。

 

井堀教授…70代の経済学者。東京大学の名誉教授。知的で鋭い目つきが特徴。毎朝カフェで新聞を読んでいる。多数の著書を執筆しており、受賞・受章も多数ある。

日本経済の成長率はなぜ低迷しているのか

 

佐藤:日本って1990年代以降ずっと成長率が低迷しているって言われますけど、いったい何が原因なんでしょう?

 

井堀:需要面と供給面の両方に問題があるね。まず需要面だと、1970年代前半までの高度成長時代には、テレビや冷蔵庫、洗濯機みたいに誰もが欲しい必需品がどんどん普及して需要が拡大した。でも、1990年代以降は社会全体が豊かになって、そうした爆発的な需要があまり生まれなくなったんだよ。さらに少子高齢化で若い世代が減り、消費意欲が低い高齢者の人口が増大したことも影響している。

 

佐藤:なるほど……。じゃあ、供給面では?

 

井堀:企業の設備投資や労働力供給を考えてみると、1990年代以降、どちらも先細りになっている。まず企業は競争力を失った面もあるし、国内の商機が薄いから海外に投資するようになった。特に地方では人口が減って市場が縮むから、むしろ成長しそうなアジアに投資したほうが得策だって考える。あと労働力面では20~60代の男性労働者は増えてなくて、女性や高齢者の労働参加がカバーしている状態。でもまだ十分に活用されてない。

 

佐藤:若者人口が減るから労働力も減って、企業も投資意欲が下がり、さらにイノベーションも生まれにくくなるって感じですか?

 

井堀:そう。そして技術革新が停滞しているのも大きい。高度成長期は欧米から先進技術を導入すれば一気に伸びたけど、1990年代以降は、先進技術を簡単に輸入できるのは稀。日本経済が自力でイノベーションを生み出さないといけないんだけど、外国から見ると日本は閉鎖的な面があって独創的な技術が生まれにくいって指摘もある。これがさらに停滞を長引かせているんだよ。

 

佐藤:なるほど……。需要面では社会が豊かになって爆発的な新需要が生まれなくなり、供給面では労働力や企業投資が先細り、そして技術革新もなかなか進まない… …複合的に厳しい状況なんですね。

成長率の低迷は日本だけ?

佐藤:日本の経済成長力がどんどん落ちているのはわかるんですが、どうしてそんなに成長率が下がるんでしょう? 日本だけの問題なんですか?

 

井堀:実は日本だけじゃなく、世界中の国が中長期的に成長率は低下傾向にあるんだ。高成長をしていた国でも、やがて成長率が落ち着いていく。これを成長率の収束と呼んでいる。

 

佐藤:成長期には一気に伸びるけど、いずれ成熟して伸びが鈍化する?

 

井堀:うん。最初は需要も投資意欲も旺盛だけど、経済や社会が豊かになっていくと、そこまで刺激されない。さらに少子高齢化が進むと若い労働力が減ってイノベーションも起きにくい。こうした要因は日本だけじゃなく世界的に共通している。

 

佐藤:中国でも最近成長率が5%を下回るようになってきたって聞きます。かつては10%以上だったのに……。

 

井堀:そう。中国も大きく成長して先進国に近い水準になるにつれ、少子高齢化が始まって、やはり高成長の勢いは衰えてきた。要するに途上国が一気に伸びるってフェーズから成熟経済への移行で、成長率が収束するのは自然な流れなんだ。途上国が成長して先進国の仲間入りを果たすと、その成長率は次第に低下していく。

 

佐藤:じゃあ、日本の成長率低下も、大きく見れば世界的な現象の一部ってことなんですね。

 

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本連載は、井堀利宏氏の著書『知らなかったでは済まされない経済の話』(高橋書店)より一部を抜粋・編集したものです。

知らなかったでは済まされない経済の話

知らなかったでは済まされない経済の話

井堀 利宏

高橋書店

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