登場人物
佐藤翔太…28歳。年収500万円くらい。大学を卒業後に上京。東京にある出版社に入社し、現在は編集者として働いている。企画が中々通らず、日々苦戦中。
井堀教授…70代の経済学者。東京大学の名誉教授。知的で鋭い目つきが特徴。毎朝カフェで新聞を読んでいる。多数の著書を執筆しており、受賞・受章も多数ある。
日本の生産性は「低い」
佐藤:日本は少子高齢化で労働人口が減っているって言いますけど、その中でも成長するにはどうすればいいんでしょう?
井堀:やはり1人当たりの生産性を上げるしかないよ。労働者の数が減る以上、生産性が上がらないとGDPも伸びないし、経済成長は難しい。生産性とは、付加価値を労働者の数で割った値なんだ。
佐藤:なるほど。実際、日本の生産性って高いんですかね?
井堀:残念だけど、そうでもない。2022年のOECDデータによれば、日本の時間当たり労働生産性は52.3ドル(およそ5099円の購買力平価)で、OECD38ヵ国中30位なんだ。1970年以降、最も低い順位だね。
佐藤:製造業ならまだましって話も聞いたことがあるんですが……。
井堀:製造業だけを見ると、時間当たり労働生産性は8万678ドル(約1035万円/為替レート換算)で、OECD主要34ヵ国中19位。イタリア(8万6181ドル)やスペイン(7万7973ドル)と同じくらいだね。
佐藤:日本はなんで労働生産性が全体的に低いって言われるんですか?
井堀:実際に産業別に見ると、輸出産業──たとえば自動車などは生産性が高い。けど、サービス業や農業、流通業のように国内市場をおもな相手にしている産業は競争が緩く、生産性が低い傾向があるんだ。
佐藤:国際競争にさらされていると、生産性を上げないと生き残れないけど、国内だけでやっているとそこまで追い込まれないってことですか?
井堀:うん。海外と戦わなきゃいけない産業は、優れた商品を開発すれば世界中で売れるし、その見返りも大きい。だから経営者も労働者も頑張る。一方、国内市場中心の産業は、輸入競合や外国企業の参入があっても、政府の保護を求めたりする。農産物の輸入規制や小売業界への保護、タクシー業界がライドシェア解禁に反対している事例なんかが典型だね。
佐藤:なるほど……。そういう保護策は短期的には安心・安全を保てても、長期的には生産性向上が進まないってことですね……。
中小企業が経済成長のカギ
佐藤:生産性を引き上げるには大企業だけじゃなく中小企業も重要ですか?
井堀:そうだね。日本の中小企業は数が多いし、雇用されている労働者数も大企業を上回る。だから中小企業の生産性を高めることが経済活性化のカギになる。経産省も中小企業の保護だけじゃなく、しっかり育成して、成長させるのを目指している。
佐藤:でも保護と構造改革って方向性が違う感じがしますよね?
井堀:その通り。構造改革は現状打破の革新、保護政策は現状維持の保守。単純に保護するだけでは企業の生産性向上には結びつかない。両方のメリット、デメリットを考慮しつつ、できるだけ構造改革を進展させられれば、日本全体の生産性も上昇するだろうね。

