(※画像はイメージです/PIXTA)

少子高齢化が進む日本。その背景には、どのような問題が潜んでいるのでしょうか。本記事では、東京大学名誉教授・井堀利宏氏の著書『知らなかったでは済まされない経済の話』(高橋書店)より一部を抜粋・編集し、少子高齢化の問題点とその原因を解説します。

登場人物

佐藤翔太…28歳。年収500万円くらい。大学を卒業後に上京。東京にある出版社に入社し、現在は編集者として働いている。企画が中々通らず、日々苦戦中。

 

井堀教授…70代の経済学者。東京大学の名誉教授。知的で鋭い目つきが特徴。毎朝カフェで新聞を読んでいる。多数の著書を執筆しており、受賞・受章も多数ある。

社会保障の財源は足りない?

 

佐藤:日本は少子高齢化が進んでいて、社会保障制度の財源が足りなくなるってよく聞きますけど、本当に大丈夫なんでしょうか?

 

井堀:正直、厳しい状況だよ。年金や医療、介護は高齢者が中心的な受給者だけど、高齢者人口が増える一方で、保険料や税金を支える勤労世代の数が減っているからね。どんどん長生きになって、65歳以上の高齢者が増えていくのに、働いて保険料を収める人たちが減るから、収支バランスが崩れやすい。

 

佐藤:保険料率が同じでも、勤労世代の人口が減って賃金も上がらないままだと、保険料収入は増えないってことですね……。

 

井堀:その通り。そうすると社会保障の財源は不足する。高齢者に支給する年金や医療・介護給付を減らすか、勤労者の負担(保険料率や税金)を上げるか、基本的にはその二択しかない。だけど、どちらも政治的に人気がない施策だね。

 

佐藤:じゃあ結局、国の一般会計からの補塡が増えて、財政赤字も拡大してしまうと……。

 

井堀:国庫負担を増やすと言っても、国の財源は税金だから、増税すれば国民の負担が増える。増税もできずに先延ばしすれば財政赤字が膨らむ。そういう悪循環に陥りやすい。このままいけば、日本の社会保障制度の持続可能性には大きな疑問符がついてしまうね。

日本の人口はゼロになる?

佐藤:日本の人口って将来どれくらい減るって言われているんでしょうか?

 

井堀:政府の推計によれば、2070年には総人口が9000万人を下回り、高齢化率は40%ほどに達する見通し。ただ、政府の人口推計はこれまで過大推計になりがちで、実際には想定以上に少子化が進んでいるから、さらに厳しい数字になるかもしれないね。

 

佐藤:そんなに減るんですか……。このままのトレンドが1000年続いたら、いずれ日本の人口がゼロになっちゃうとか言われていますよね。

 

井堀:理屈の上ではそうなるけど、実際にはそこまで行く前に出生率が何らかの形で回復するとか、移民を積極的に受け入れるとか、いろんな要素が働くだろうね。それでも、今の1億2000万人規模から大きく減少するのは確実だね。

 

佐藤:日本の人口が減っている原因って何なんでしょうか?

 

井堀:一番の要因は出生数の減少。合計特殊出生率といって、女性が一生に産む子どもの数を示す指標が高度成長期までは2以上だった。でもその後ずっと下がり続け、今は1.5を下回る水準だ。2を下回ると人口は自然に減るから、少子化が進行しているわけだね。

 

佐藤:政府は人口推計を作っていますけど、いつも想定より出生率が低いって聞きます。

 

井堀:うん。政府は高位・中位・低位の3つのシナリオを用意しているけど、現実は中位推計よりも低い値に近く、実績がずっと見込みを下回っている。つまり、過大推計だと批判されている。結果的に、1年間に生まれる子どもの数も予測以下になり、最近では80万人を割り込んだ。2060年以降は50万人以下になる可能性がある。

 

佐藤:なるほど。合計特殊出生率が回復しないと、このトレンドは変えられないわけですね。

 

井堀:そうだね。少子化対策は焦眉の急だが、実際に出生率を上げるのは難しく、政府のシナリオと現実にギャップがあるのが今の状況だよ。

 

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本連載は、井堀利宏氏の著書『知らなかったでは済まされない経済の話』(高橋書店)より一部を抜粋・編集したものです。

知らなかったでは済まされない経済の話

知らなかったでは済まされない経済の話

井堀 利宏

高橋書店

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