(※写真はイメージです/PIXTA)

会社と従業員の関係に関する法律は、日本と米国等で大きく異なるわけではありません。しかし実情は、かなりの乖離があります。本記事では、日本の大企業を中心に色濃く残る「日本型雇用」について見ていきましょう。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

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「終身雇用・年功序列賃金・企業別組合」=日本的経営の特徴

日本と米国等では、会社と従業員の関係に関する法律には大きな違いはありません。しかし、実際の関係は大きく違っています。

 

日本の特徴には「終身雇用」「年功序列賃金」「企業別組合」があり、これらは「日本的経営」と呼ばれています。

 

こうした関係は、高度成長期には大変便利なものでした。最近は、状況が変わりつつありますが、それでも大企業を中心に本質的な部分は残っています。

崩れつつある「終身雇用制」だが、本質はいまだ健在

終身雇用制というのは、学校を卒業してから定年退職するまで1つの企業(政府、学校等を含む、以下同様)で働く、というものです。従業員の側から退職するのは自由ですが、雇い主の側から解雇するのは例外的な場合に限られるのです。

 

日本人はリスクを嫌うといわれていますので、「いつ解雇されるかわからない」という不安を抱えている米国企業より、日本企業の方を好むということなのでしょう。日本企業としては「雇用を保証する」といえば従業員が喜ぶことを知っているので、「米国企業よりは給料が安いけれど、雇用は保証する」ということで、Win-Winの関係だったわけです。

 

最近は転職も増えていますが、かつては多くありませんでした。後述のように、年功序列賃金制が転職を思いとどまらせていたという面もありますし、加えて企業の採用が新卒中心で、中途採用は稀だったからです。かつては「会社は家族」と呼ばれるように、新卒で入社した人々が一体感を持って、それぞれの企業文化をはぐくみ、愛社精神を持って働いていた、ということなのでしょうね。

 

最近では転職が増えたり、定年後再雇用が増えたり、定年後に新しい仕事に就く人も増えたりして、「終身雇用」は緩みつつあります。加えて、パートやアルバイトといった正社員以外の活用が盛んになり、終身雇用が適用されない労働者の比率も上がっています。しかし、それでも終身雇用の本質的な部分は健在だといえるでしょう。正社員は原則として、自分で望めば同じ会社で働き続けることができるわけですから。

 

余談ですが、筆者は終身雇用制が成り立つ条件として「恥の文化」があると考えています。「サボっていると窓際族にされてしまう。それは恥ずかしいから真面目に働こう」と思う社員が多いから成り立つのであって、「サボってもクビにならないならサボろう」という社員ばかりでは、会社が成り立ちませんから。

ゆるみつつある「年功序列賃金」も、本質はいまだ健在

年功序列賃金というのは、勤続年数が増えると給料が上がる、という制度のことです。「勤続年数が長くなれば業務に習熟するから、給料が上がるのが自然だ」ということもあるでしょう。日本では「先輩は後輩より偉いから、給料が高いのは当然だ」と考える人も多いので、その影響もあるのでしょう。しかし、高度成長期には別の理由もありました。

 

第一に、高度成長期は大変な労働力不足の時代だったので、労働力の確保に資する制度として重要だったのです。若いときは会社への貢献より給料が低く、年齢が上がると会社への貢献より給料の方が高くなる、という制度にしておくと、途中で退職する人が減るのです。途中で退職すると「会社への貸し」が回収できなくなってしまいますから。

 

もうひとつ、高度成長期は会社の規模が拡大していましたから、若い社員の比率が高かったということもあります。若手社員の給料が相対的に安かったので、会社全体としての給与総額が抑制できたというわけです。

 

従業員の側も、子育てに金がかかる時期に高い給料が受け取れるのは好都合ということがあったようです。

 

最近では、年功より能力のほうが重視される例も増えてきました。労働者全員をつなぎとめる必要性が薄れ、優秀な労働者だけをつなぎとめればいい、と考える企業も増えてきましたし、経済が成長しなくなると社員の中高年比率が高まり、年功序列では会社全体の給与総額を増やしかねませんから。

 

そうはいっても、年功序列の根幹は健在だといえるでしょう。「先輩を敬う」という日本文化は依然として生きていますし、能力主義を強調しすぎると社員同士が競争するようになり協調しなくなる、といった問題点も指摘されているからです。

企業別組合は、変わることなくなお健在

各企業に労働組合があるという点は、いまでも健在です。終身雇用の原則がある以上、定年まで同じ企業に勤める労働者が多いわけですから、会社に無理な賃上げを要求して会社が傾いてしまうよりは、節度ある要求をして会社が発展してくれた方が多くの労働者にとって好都合だからです。

 

産業別労働組合では「無理な要求をして会社が傾いても構わない」ということになりがちなので、それを避けられるようなシステムになっているわけですね。

他企業や銀行との取引も「長期的視点」を重視

企業と労働者の関係が長期的であるのも日本的経営の特徴ですが、企業と他企業、企業と取引銀行の関係も、長期的な関係が重視されているのが日本の特徴です。この点については、別の機会に詳述しましょう。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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