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家族がいなくなった家
しかし、その重たい空気の中で、ひときわ輝いてみえたのは彼女自身だった。よく笑い、よく話す。質問も多く、言葉は前のめりで、活力があった。過去の出来事、家族のこと、これからの不安まで、包み隠さず話してくれた。部屋は暗いけれど、この人は光を求めている――そう感じた。
彼女はこの家で、家族とともに長年を過ごしてきた。夫との離婚、息子たちの独立、親の長期にわたる介護。そのすべてを見届けたあと、ふと気づけば“自分ひとり”がそこに残っていた。
それでも、猫と会話しながら日常を守っていたという。ところがある日、“鑑定詐欺”に巻き込まれてしまう。親から相続し、大切に守ってきた老後資金500万円のほとんどを失うことに。暮らしは、静かに崖っぷちに立っていた。
現実的でないリースバック・リバースモーゲージ
「家を売らずに、住み続けられないでしょうか?」
彼女が望んだのは、リースバックだった。これは、自宅を売却することで現金を得られる。購入者と賃貸契約を結んで同じ家に住み続ける仕組みだ。ただし、その後は家賃を支払い続ける必要があり、一時的に売却代金は入って来るが、普通に売却するよりかなり低い金額になる場合が大半だ。賃料負担も発生するため、長期的には経済的負担が大きくなる。彼女の年金額は月10万円。リースバックで発生する家賃は、この年金額では到底まかなえず、生活が破綻してしまうのは明らかだ。
次に検討したのがリバースモーゲージ。こちらは、自宅を担保にして金融機関から老後資金を借りる制度で、死亡後に家を売却して返済する。だが、審査が厳しく、金利も高いため、長期的にみると負担は大きくなる。
どちらも、いまの彼女には現実的ではなかった。
家を手放すという「選択」
彼女は、自宅を「古くて価値がない」と思い込んでいた。しかし、築50年を超える住宅は敷地が広く、彼女の家は戸建3棟が建てられるだけの面積を持っていた。そのため、建売業者が好条件で購入を申し出てくれたのだ。
販売期間から引渡しまでの資金についても、金融機関の協力でつなぎ融資が受けられた。 結果、詐欺被害による借金も含め、債務はすべて返済され、彼女は余裕資金を残して日当たりのよい1LDKのマンションを購入した。
“人生で初めて”、自分の意思で選んだ住まいだった。
