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デジタル化による手続きの簡略化と法的安定性の両立を期待
法務省の法制審議会における議論は、スマートフォンやパソコンを用いた遺言作成を可能にするもので、本人の意思確認を録画で残し、証人の立会いも義務付けるなど、法的信頼性を担保しつつ利便性を高める新たな仕組みを模索している。
資産の種類や規模が多岐にわたる富裕層の間では、紙とペンによる従来の遺言方式では対応しきれないとの声もある。デジタル化によって手続きの簡略化と法的安定性の両立が期待されており、相続トラブルの未然防止にもつながるとみられる。
現在は、録画データの保存方法や証人の資格、改ざん防止策といった制度設計の詳細を詰める段階に入っている。
明確な意思表示手段としての「遺言」、ますます重要性が高まる
『親まかせにしない相続対策』の著者である税理士・岸田康雄氏は、現行の自筆証書遺言についてこう指摘する。
「本人確認や意思の確認手段として、全文の自署、日付、署名、押印が求められていますが、これらをオンラインで行うのは困難です。代替手段として、ネット上での顔撮影やマイナンバー認証、電子署名の導入などが検討されています」
実際、日本では遺言書を作成している人は少なく、自筆証書遺言に関しては形式的な不備により無効とされるケースが後を絶たない。全文を手書きする必要があるため、日付や署名の記載漏れといった単純ミスが致命的になることもある。
この点、デジタル遺言書ならクラウド上でデータを保存するため、紛失や改ざんのリスクを大幅に低減できる。ブロックチェーンなどの技術を活用すれば、改ざん防止の仕組みも現実味を帯びてくる。
一方、公正証書遺言は法的な信頼性が高く、全国の公証役場で作成できるという利点があるが、作成には費用と手間がかかることから、遺言自体を避ける要因にもなっている。
遺言の不存在や内容の曖昧さは、相続を巡る争いの火種となりうる。特に、不動産や株式、事業承継が絡む富裕層や経営者の遺産では、親族間の対立を招くケースが少なくない。明確な意思表示手段としての遺言の重要性は、今後ますます高まるだろう。
最大の懸念はセキュリティ面、被相続人の意思確認の信頼性も課題に
もっとも、制度導入には技術的・法的な課題も多い。最大の懸念はセキュリティ面だ。デジタルで作成された遺言書は、改ざんやなりすまし、情報漏洩といった新たなリスクと隣り合わせになる。
経済産業省が2023年に実施した調査でも、多くの企業がクラウド環境への不安や外部からの攻撃リスクを指摘している。個人情報、とりわけ遺言書といった重要文書の管理においても、こうしたリスクをどう抑えるかは大きな焦点となる。
また、録画による意思確認の信頼性も制度化の鍵を握る。録画が改ざんされていないとどう証明するのか。証人の中立性をどう確保するのか。こうした疑問に対し、技術的・法的な裏付けをもって制度設計を進める必要がある。
「海外では『紙以外の遺言』が既に法制度として整備されています。たとえばアメリカでは、2人以上の証人の前で電子署名すれば、デジタル遺言が有効とされています。韓国では、録音による遺言も認められています」(岸田税理士)
富裕層の資産承継のあり方を大きく左右する可能性
デジタル遺言書は、従来の制度の限界を乗り越え、より多くの人が自身の意思を確実に残せる手段となる可能性を秘めている。特に相続財産が複雑で広範な富裕層や経営者にとって、デジタル遺言は極めて有力な選択肢となりうる。
今後の法制審議会の議論と、それに基づく制度設計の行方が、遺言制度の未来──ひいては日本社会における資産承継のあり方──を大きく左右することになりそうだ。
THE GOLD ONLINE編集部ニュース取材班
