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仏壇の裏に隠された秘密
渾身の力で押してみますが、仏壇はびくともしません。しかし、諦めきれず懐中電灯で足元を照らしてみると、そこには小さなキャスターが。長年の埃をものともせず、なんとかそれをずらすと、その裏には小さな隠し扉が。寛子さんが実家に住んでいたころも、家を出てからも、まったく知らなかった扉です。
「なによ、これ!?」
恐る恐る開けると、物置のようなスペースがあり、そこには古びた紙袋が一つ。中からは、おそらくお歳暮でもらったのであろう大きなクッキー缶が出てきたのです。クッキー缶からは、また別の預金通帳と現金が数十万円入っていました。
寛子さんはこの隠し場所の巧みさに気づきます。
(そうか、お父さんは仏壇にはノータッチだったし、お掃除はいつもお母さんがしていた。ここなら絶対に見つからないわ)
母親の努力に感心しつつも、寛子さんは少し怖いと感じました。キャスター付きですが、仏壇の重さから推測するに、ここ数年の、加齢によって筋力の落ちた母親はすでにこの隠し扉を開けられなくなっていたと推測できます。母親は、開けられないことを寛子さんに相談する前に認知症の症状が悪化してしまったのでしょう。もし今回、家の中を探す機会がなければ、これらの資産は誰にも知られないままだったかもしれません。
親が認知症などで判断能力が不十分になった場合、その資産管理は家族にとって大きな課題となります。法務省の統計では、判断能力が不十分な人を法的に支える「成年後見制度」の利用者数は年々増加傾向にあり、多くの家庭が同様の課題に直面していることがわかります。寛子さんのように、親の資産を把握しきれていないケースは決して珍しくないのです。
なぜ資産の把握と遺言は重要なのか
今回、寛子さんは資産を発見できましたが、これが親の死後、遺産分割協議が終わったあとだったらどうでしょうか。新たに見つかった財産について、再び協議を開く必要があり、そこで揉め事に発展する可能性もあります。
実際に、遺産をめぐるトラブルは後を絶ちません。最高裁判所の司法統計(令和5年度)によると、全国の家庭裁判所に新規で申し立てられた遺産分割事件の件数は1万件超え。こうした争いの多くは、「誰がどの財産を相続するか」という点で意見が対立することから始まります。
その有効な対策として「遺言書」の作成が挙げられますが、ただ書けばよいというものではありません。遺言書には大きく分けて3つの種類があります。
自筆証書遺言
最も手軽な方法ですが、日付や署名、押印など法律で定められた形式を守らないと無効になるリスクがあります。
秘密証書遺言
内容は秘密にできますが、公証役場での手続きが必要となり、あまり利用されていません。
公正証書遺言
公証人が作成に関与するため、形式不備で無効になる可能性が極めて低く、最も確実な方法とされています。
専門家が立ち会わない自筆証書遺言は特に不備が多く見つかりやすい傾向にあります。せっかくの想いを確実に遺すためには、正しい形式で作成することが不可欠です。
