前回は、「デット・エクイティ・スワップ」を利用した相続税の節税について説明しました。今回は、法人化にあたって事前に押さえておきたいデメリットや注意点について見ていきます。

法人化による節税は専門家に相談したうえで実行

ここまでの連載を読むと、「一定額以上の資産を保有している人は、すべて会社を設立したほうが節税になる」と思われるかもしれませんが、前回ご紹介した3年ルールのように、実は注意しなければいけないことがいくつかあります。

 

相続税の計算では「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」といった優遇措置がありますが、前述したとおり、会社設立後の相続では小規模宅地等の特例が受けられなくなるといったデメリットがあります。そうしたデメリットもきちんと理解した上でスタートさせましょう。

 

例えば、現在出ている節税本などには、会社を作った上で建物だけは会社の名義にしましょう、といった推奨をしているケースがよく見うけられます。土地は譲渡所得税が発生してしまうためですが、「宅地は個人、建物は法人が保有」というパターンでは「小規模宅地等の特例」が完全に受けられなくなってしまう場合があります。「とにかく、建物だけを移しなさい」という具合に断定している節税本が多いのは残念です。税理士など専門家に相談してから行動する必要があるでしょう。

 

さらに、個人で賃貸住宅などを保有していれば、不動産事業に使っている「事業用資産」であっても、面積制限はありますが50%の評価減を受けることができます。ただし、会社名義に換えてしまうと評価減措置は受けられなくなってしまう場合があります。

 

詳細は、第10回でご紹介した法人化のシミュレーションについて見ればわかりますが、個人で小規模宅地の評価減措置を使えば、最大80%まで評価額を割り引くことができます。ただ、面積制限があるため、個人で面積制限を超えてしまうような相続財産がある人は、会社を設立して相続財産を会社に譲渡し、株式として相続するほうが節税できるはずです。

 

税理士の中には相続に強くない税理士も少なくなく、こうした軽減措置に精通していない人もいるので注意してください。それぞれの資産には面積制限があって、複雑な計算方法が求められます。

優遇措置が「使えない」パターンを知っておく

では、先に「小規模宅地等の特例」が受けられなくなってしまう場合があると指摘しましたが、実際にはどのような場合か、ここで詳しく説明しておきましょう。

 

それは土地を親が保有したままでは、建物を保有している会社との間で「使用貸借関係」ができてしまうことになり、使用貸借があると「準事業」に該当しなくなってしまうという点にあります。つまり、準事業に該当しなくなってしまうと、最高200㎡までの「小規模宅地等の特例」が使えなくなってしまうのです。小規模宅地の軽減措置が使えないということは、相続税対策としては非常に不利になります。

 

くり返しますが、建物だけを会社保有にする相続税対策の最大の欠点は、小規模宅地の軽減措置を受けられないリスクがあるということです。「きちんとした賃貸借契約です」という説明をすればどうにかなるのではないか│という考え方もありますが、同族会社との間でもきちんとした賃貸借関係を結ぶためには、土地の賃貸料を相続税評価額の6%程度という高い金額(相当の地代)に設定したり、固定資産税、その他の必要経費を差し引いたりしても、なお相当な利益が出ている状態(相当の対価)にしないと認めてもらえません。

 

ただ、通常土地の賃貸借を行う場合には、多額の権利金を支払うことが多く、その支払いがない場合には、権利金の「認定課税(借地権相当額の贈与があったとして課税されること)」が行われます。この認定課税を回避するためには、後述の「無償返還の届出書」、要するに、借地権とか大きな権利は発生していないですよ、ちょっと借りているだけで、将来タダで返しますよという書類を税務署に提出する必要があります。

 

この書類を提出している場合には、相当の地代や相当の対価といえるだけの地代を払っていないと、実は使用貸借とみなされて、小規模宅地等の特例の適用が受けられなくなってしまうのです。権利金の認定課税を避けることも大事ですが、使用貸借とみなされないだけの地代を法人から個人に支払うことも重要です。

 

いろいろと難しい土地の賃貸借ですが、さらに相続税に関しては同族会社との間での賃貸借契約というのは、きちんとした金銭のやり取りがないと認めてもらえないので、銀行預金の口座を通す、地代については所得税の申告をちゃんとする等が必要になります。

「無償返還の届出書」の提出も忘れずに

先ほども少し触れた「無償返還の届出書」ですが、ここで詳しく説明しましょう。

 

相続税の節税の方法として、土地は父親の名義のままにして、上の建物だけ息子が作った会社名義のアパートが建ててある・・・。そんなスタイルの節税方法をしばしば見かけますが、個人の土地の上に同族の法人が建物を建てた場合、法人は先にも出てきた「借地権」という民法上の権利を持つことになります。

 

通常は、土地の所有者と借地人の間には、借地権相当の権利金などが支払われるのですが、親子などの同族の場合は、こうした権利金が動かないのが普通です。というのも、非常に高額で、譲渡所得税の対象にもなりますし、そんな資金のやり取りをしていては相続税にも響くからです。

 

そこでこのようなケースでは、所轄の税務署に、土地所有者と同族会社の間で土地の賃貸借をした際に、権利金の受け渡しをしなかったことや、権利金の授受をしない代わりに、賃貸借関係が終了した際には、同族会社が土地所有者に対して借地権相当の金銭などを請求しない――以上のことを明記した「無償返還の届出書」を出しておく必要があるのです。

 

この無償返還の届出書を出しておかないと、権利金を支払うことなく借地権を取得したとして、法人税上の「受贈益」が計上されて課税されてしまいます。

 

父親の土地に、息子が設立した法人が建物を建てる場合には、①賃貸借契約をきちんと結び、②地代の支払いも痕跡を残すことが必要ですが、さらに③税務署への「無償返還の届出書」の提出も忘れないことが重要です。

本連載は、2013年8月2日刊行の書籍『相続税は不動産投資と法人化で減らす』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続税は不動産投資と法人化で減らす

相続税は不動産投資と法人化で減らす

成田 仁,富田 隆史

幻冬舎メディアコンサルティング

従来より相続税対策として考えられてきた、アパートや小規模ビルなどの建設。しかし、それこそがリスクをもたらしているかもしれないとした…。 本書は、持て余している土地を収益性の良い賃貸物件に買い替える不動産投資の最…

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