「DES」を活用するなら早めの手続きが肝心
今回は、評価額を下げるため少しテクニカルな手法を紹介したいと思います。
例えば、親の自宅を相続税節税のために法人化して、親の資産を法人名義に換えた場合、法人には親に対する「未払金」「借入金」がバランスシートに載ることになります。このまま放置してしまうと、いざ相続の場面になったときに、法人には父親の貸付金がそのまま残り、貸付金も含めて相続資産として申告しなければならなくなってしまいます。つまり、そっくり相続税として課税されてしまうわけです。
そこで必要になるのが、法人の借入金を株主資本に振り替える作業です。「デット・エクイティ・スワップ(Debt Equity Swap、以下DES)」と呼ばれる手続きですが、簡単にいえば、法人が借り入れた分だけ「増資」をして、貸付金を出した親がその株式を受け取る形にするということです。
DESによって、貸付金を自社株にするわけですが、これを行うことで相続税を圧縮できます。前述したように、自社株の相続税評価額は「純資産価額方式」と「類似業種比準価額方式」をミックスさせたような価格になりますが、これで父親の相続財産は株式となって、大きく圧縮できることになります。
ただし、DESは法人の増資になるために、官報への公告や法務局への登記など、面倒な手続きが必要ですし、時間もかかります。早めに済ませておきましょう。
「3年ルール」を十分に考慮して対策を
ここまでに何度か触れてきましたが、法人を使った節税では、相続のタイミングも大きなポイントになります。第11回のシミュレーションでも触れたとおり、法人を設立して譲渡した財産は、3年間は購入した価格(個人の場合には路線価評価額)で評価されるという「縛り」に注目する必要があります。
3年の間に相続が発生した場合は、相続税の節税効果はほとんどなくなってしまうということです。簡単に相続税対策をさせないために、3年間という「縛り」があるわけです。
3年の「縛り」が消えた段階で税務処理を行うのが一番賢い相続税対策といえますが、残念ながら、相続のタイミングは誰にもわかりません。相続税対策のために法人を作るのであれば、親の資産を会社に移してから、なんとしても3年間は生きていてもらわないと節税の効果はかなり少なくなってしまいます。
そういう意味では、親がまだ元気なうちに相続税対策を始めることが大切です。つまり、できるだけ早めに会社を設立するほうがベターといっていいでしょう。
会社設立には多少のコストもかかりますし、設立以後もランニングコストがかかるためにそう簡単なことではありませんが、少なくとも近い将来に相続の心配がある人は、収益物件を探しながら先に会社を設立してしまうことです。
要するに、この〝3年ルール〞こそ、法人設立の際に最も注意すべきことといえます。3年ルールをにらみながら、法人を設立し、さらに相続のスキームを作っていく必要があるということです。