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父親の成功の陰で息子たちは…
移住当時17歳だった長男は、新しい高校の空気に馴染めず、わずか半年で退学。自らの居場所を求め東京へ戻るも、受験勉強に励むかつての友人たちとの間には、埋めがたい溝ができていた。
最終学歴は中卒。彼が独力で安定した職を得るのは困難だった。父親である利典は店の仕事を手伝うよう促したが、長男はそれを頑なに拒否。数ヵ月に一度の電話連絡も、いつしか完全に途絶えた。母親が聞きおよんでいた住所を訪ねても、すでに退職し行方は知れず。警察に相談しても、「本人が望んでいない可能性がある」として、積極的に捜索されることはなかった。以来50年以上、長男は行方不明のままである。
一方、次男の勇作(仮名)は、移住と同時に入学した高校で陰湿ないじめの標的となり、1年生の冬に不登校の末、中退した。父親の勧めで洋菓子店の手伝いを始めたものの、厨房は彼にとって戦場そのものだった。一見華やかに見えるパティシエの仕事は体力勝負なうえ、熱気と怒号が飛び交う厳しい職人の世界に、彼の繊細な心はすぐに折れてしまった。
そこから勇作の職歴は迷走を始める。水産加工場、スーパーの品出し、オフィスビルの警備員。どれも長続きせず、多くは無断欠勤の末、母親が頭を下げて退職手続きをするという繰り返しだった。それでも若さと好景気に支えられ、なんとか社会との繋がりを保っていたのは1980年代までだった。
実家に籠り、社会と断絶した次男
1990年代に入り30代になった勇作は、ついに働くことを完全に放棄した。日本経済が「失われた時代」に突入すると、彼の労働意欲もまた、完全に凍結してしまったのだ。アルバイト先の大学生から「無職のおっさん」などと揶揄されたことを機に、彼は社会との接点を断ち、実家の自室に引きこもった。父親が築き上げた事業の輝かしい成功とは対照的に、勇作は、当時そのような言葉はなかったが「パラサイトシングル」として、時が止まったかのような生活を送りはじめた。
年齢を重ねるごとに性格は偏屈になり、些細なことで感情を爆発させ、家で暴れることも増えた。居間には当時の勇作が開けた大穴を修復した痕跡がいまだ残っている。利典はそんな息子を不憫に思い、毎月35万円の小遣いを渡し、年金や健康保険料も肩代わりし続けた。
勇作に友人はおらず、女性と交際した経験もない。彼の唯一の居場所はインターネットの世界だけだった。7年前、彼を案じ続けた母親が病により85歳で世を去った際、死亡保険金として1,000万円が勇作に渡されたが、その大金は彼が熱を上げる地下アイドルの「推し活」に瞬く間に消えた。SNSでのトラブルから弁護士を通じて慰謝料50万円を請求された際も、支払ったのは父親の利典だった。
