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事業の栄光と家庭の崩壊
ビジネスでの大成功が、必ずしも幸福な家庭を約束するわけではない。地域社会で名士として尊敬を集める一方で、その子供が社会的に自立できず、家庭内に深い亀裂が生じているケースは珍しくない。
古くから使われる「富裕層のドラ息子」という言葉が示すとおり、親が築いた潤沢な資産を、子供がただ浪費していく光景は、ニュースの中だけの話ではない。資産家にとって、我が子への教育は自らの財産を守り、一族の繁栄を次代へ繋ぐための最重要課題である。
しかし、現実は理想通りには進まない。特に、自らの手で事業を興した創業オーナーは、家庭を犠牲にビジネスへ没頭してきた過去を持つことが少なくない。その結果、巨万の富を築いても、家族関係は修復不可能なほどに朽ち果てている、という現実に直面するのである。
ここに、社会的には大成功を収めながらも、その裏で家庭崩壊という現実に苛まれる一人の男性の姿を紹介する。
夢を追って地方移住
いまから52年前、当時40歳だった川田利典(仮名)は、家族を連れて東京を離れ、ある地方都市へと移住した。戦後、都内の一流ホテルで洋菓子職人(パティシエ)としての腕を磨き、1970年代、不惑の年に自らの店を構える決断をしたのだ。
縁もゆかりもない土地だったが、豊かな自然への憧れと、都会育ちの子供たちに広々とした環境を与えたいという親心から、海沿いの街を選んだ。
商店街の一角に小さな店舗を借り、夫婦二人三脚で洋菓子店を開業。修行時代の親方からは「本物のフランス菓子は、舌の肥えた東京でしか通用しない」と忠告されていたが、いざ暖簾を掲げてみると、その心配は杞憂に終わった。当時、その地域では目にすることのなかった繊細な味わいのザッハトルテや、バターが香るナポレオンパイは熱狂的に受け入れられ、店は連日行列ができる大繁盛店となる。
競合がいない市場で事業は急成長を遂げ、郊外や近隣都市のデパートにも支店を展開。従業員も数十人を数えるまでになった。人の縁にも恵まれ、“よそ者”だった利典は、いつしか地域の顔役に。業界団体や商工会の要職も歴任し、名実ともに地域の成功者と目される存在となっていった。
しかし、事業の成功と反比例するように、家庭は静かに崩壊へと向かっていく。店のカウンターに立つ時間よりも、会合の席で酒を酌み交わす時間のほうが長くなり、利典の足は次第に家から遠のいていった。
