(※写真はイメージです/PIXTA)

企業は、赤字でも黒字でも「資金繰り」がつかなくなると倒産します。融資している銀行は大いに困るはずですが、場合によっては、返済を迫ることなく待ち続けてくれるケースもあるのです。なぜでしょうか? 経済評論家の塚崎公義氏がやさしく解説します。

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企業が倒産するのは「資金繰りがつかない」から

企業が倒産すると、資産をすべて処分して借金を返すので、事業が継続できず、社長も従業員も路頭に迷うのが普通です。これは悲惨な事態ですから、ぜひ避けたいですね。「企業が倒産するのは、赤字が続いて借金が膨らむから」と思っている人も多いでしょうが、じつは企業が倒産するのは、「資金繰りがつかないから」なのです。

 

赤字続きとなり、このままでは借金が返せなくなる企業の場合、普通は銀行から「持っている資産を全部処分して、返せるだけ返してくれ」といわれ、倒産する場合が多いでしょう。ところが、場合によっては銀行から「返済は急がないから、返せる時に返してくれ」といわれることもあり、その場合には倒産はせずにすむのです。

 

ちなみに、日本政府は赤字続きで巨額の借金を抱えていますが、資金繰りに困っていないので倒産していません。企業でも同様の事が起き得るのです。

売れるほど「仕入れの資金」が必要に…黒字倒産する企業の事情

一方で、黒字でも倒産する企業はあります。

 

たとえば、売り上げを伸ばすために「支払いは1年後でいいから買って下さい」と頼み、仕入れを安くするために「即金で支払うので値引きして下さい」と頼んでいる企業は、利益は出ているかもしれませんが、売れれば売れるほど仕入れのための資金が必要になり、資金繰りが破綻してしまう可能性があるわけです。

 

帳簿上の利益が大きくても、資金繰りが破綻してしまえば倒産のリスクは高まるでしょう。

債務超過でも倒産しない企業もある

赤字が続いて借金が嵩み、「持っている資産をすべて処分しても借金が返せない」という状態になることを「債務超過」といいます。

 

そうなると、銀行は「ほかの銀行が返済を求めることで、借り手の資産が減ってしまうと、わが銀行への返済が不可能になってしまうかもしれない」「それなら、ほかの銀行が返済を求める前に、急いで返済を求めよう」と考えるのが普通です。

 

しかし、場合によっては銀行が返済を要求しないことがあります。取引銀行が1行しかない場合がほとんどですが、複数の銀行が協力して借り手を支えるという場合も皆無ではありません。支える理由のひとつは「いまは不況で赤字だが、技術力のある借り手なので、景気が回復すれば黒字になって借金返済が可能になるだろう」と考える場合ですが、それだけではありません。

 

100万円の借金で100万円の機械を購入した借り手が「毎年1万円の赤字で、改善の見込みがない」としましょう。借金の全額返済が不可能なわけですから、銀行としては「だったら、機械を売却して返せるだけ返してくれ」といいたいところです。しかし、そうなると、まだ使える機械がスクラップとして買い叩かれることになり、回収可能額は非常に小さくなってしまうかもしれません。

 

それなら、返済を待つことで企業に操業を続けさせ「赤字であっても減価償却分のキャッシュを返済に用いさせる」ほうが銀行の利益になるかもしれません。

 

借り手が機械を10年で減価償却しているとしましょう。毎年10万円の減価償却です。借り手が10万円の原材料を用いて製品を作り、19万円で売っているとすると、借り手の決算は1万円の赤字となりますが、借り手の現金は毎年9万円増えます。収入は19万円で支出は10万円だからです。その9万円で借金を返済させれば、10年後に機械が使えなくなるまでに90万円を回収することができます。そのほうが銀行にとって利益になると思えば、銀行は返済を待つかもしれません。

 

実際には、債務超過の借り手への対応は手間がかかるので、銀行としては「100億円貸しているなら、手間を惜しまず返済を待って時間をかけてできるだけ回収するが、100万円しか貸していないなら手間を嫌って、回収額が減るとわかっていても直ちに回収する」ということもありそうですが。

【初心者向け】減価償却で利益とキャッシュフローが乖離する

企業の決算で、鉛筆購入代金は費用として扱われます。実際はどうであれ「決算期末までに使い切ってしまった」ことにするのです。「鉛筆が半分残っているから、前期の費用は半分で、残りの半分は資産として貸借対照表に載せよう」と考えるのが正しいのですが、面倒ですから。

 

しかし、設備機械はそういうわけにいきません。「設備投資をした年には巨額の費用がかかって大幅な赤字となり、翌年からは黒字になる」というのでは、企業の本当の姿が決算書から見えにくくなってしまうからです。

 

一方で、機械が動いている間は資産として計上し、機械が壊れた年に資産が失われたという扱いをすると、機械が壊れた年だけ大幅な赤字になってしまい、やはり好ましくありません。

 

そこで企業は決算書作成に際して減価償却という操作をします。「100万円の機械は、100万個の製品を作ると壊れる」とすると、「製品を1個作るたびに機械の価値が1円下がる」と考えて、1円を費用として決算書に計上するのです。

 

そうなると、現金の動きと決算上の利益の動きが異なってきます。機械を買った瞬間には、現金は100万円減りますが、費用は発生しないので、決算は赤字になりません。翌年からは、現金は減りませんが、決算では機械が磨り減った分の費用が計上されます。企業は、その費用を売値に上乗せすることになります。

 

銀行から100万円を借りて機械を買った企業は、その後、1円で仕入れた材料を加工して作った製品を2円で売ろうとします。2円で売らないと機械が磨り減った分が回収できず、決算が赤字になってしまうからです。そして、2円で売れると利益はゼロなのに現金が1円増えます。その現金を銀行への返済に用いると、ちょうど100万個作って機械が壊れた時に借金が返し終わることになるわけです。

 

上記のケースでは、製品が1.9円でしか売れずに赤字になるわけですが、それでも90万円は返済できる、というわけですね。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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