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「内部留保で設備投資・賃上げすべき」との声をよく聞くが…
「日本企業は〈内部留保〉を持ちすぎているから、内部留保を使って設備投資や賃上げをすべきだ」という人がいます。内部留保というのは、利益のうち配当されなかった部分を企業に残しておくというものなので、「利益を溜め込みすぎるのはケシカラン」ということなのでしょう。
一方で、「日本企業は〈現預金(現金および預金)〉を持ちすぎている。現預金は大して利益を生まないのだから、現預金を使って設備投資や賃上げをすべきだ」という人もいます。
両者はまったく異なるものなのに、違いがわかっていない人もいます。現預金は、バランスシートの左側、資産の部に記載されています(詳しくは拙稿『この会社、倒産しないよな?…就活生もチェックする「会社の健康情報」バランスシートの超キホン』ご参照)。一方で、内部留保というのは利益のうちで配当されなかった分が企業内に残っているもので、バランスシートの右下、純資産の部に記載されています。
企業が利益の一部を配当せずに留保すると、現金と内部留保が増えるのが普通でしょう。しかしその後、その現金が設備投資や借金返済などに使われると、現金残高は減りますが内部留保は減らないので、「内部留保は多いが現預金は少ない」企業になります。それは、設備を十分に持ち、借金が少ない企業でしょうから、問題視するような状況ではありません。
内部留保では「設備投資できない」ワケ
「内部留保をため込まずに設備投資をしろ」というのは、そもそも無理です。設備投資をするためには現金が必要です。現金が足りなければ、預金を取り崩すか、借金をするか、資産を売却する必要がありますが、いずれにしても内部留保は減りません。設備投資によって生産量が増えれば、利益が増えて内部留保はむしろ増える場合も多いでしょう。
設備投資をすると設備が増えます。設備はバランスシートの左側に資産として記載されます。これが増えるためには、左側のほかの項目(たとえば現金)が減るか、右側の項目が増えなければなりません。バランスシートは左の合計と右の合計が等しいのですから。そのことからも、「内部留保を使って設備投資をする」ことができないということが理解できるでしょう。
内部留保が減るのは利益より配当が多い場合ですから、巨額の配当をするか、利益がマイナスになるかのいずれかになります。無謀な設備投資や賃上げによって企業が赤字に転落すれば、結果として内部留保は減少するでしょうが、それは「内部留保を使って設備投資や賃上げをした」とはいえないでしょう。巨額の配当をすれば内部留保は減りますが、それは内部留保で設備投資をすることとは関係ありませんね。
内部留保は資本効率を低下させるが、経営を安定させる
設備投資の資金源という話とは別に、企業が内部留保を溜め込んでいることに対する不満は、投資家に根強いかもしれません。企業が内部留保を配当してくれれば、もっと稼げるかもしれないからです。
「資本金10、内部留保40、銀行借入50、資産100」という企業があるとします。株主は、10の資金を投じて1社分の利益を配当として受け取っています。この企業が内部留保の40を配当したら、必要資金は追加で借りるでしょうから、「資本金10、内部留保0、銀行借入90、資産100」という企業になるでしょう。同時に株主は40の現金を手にするので、同じような企業を4社購入して、5社のオーナーとなり、5社分の利益を配当として受け取れるようになるでしょう。これは株主にとって素晴らしいことです。
しかし、それは日本経済にとって好ましいこととは限りません。配当前の企業は49の損失を計上しても倒産しない安全な会社だったのに、配当後の企業は11の赤字を計上すると倒産してしまうかもしれない脆弱な会社です。
会社が倒産すると、従業員が路頭に迷うことになりかねませんし、下請け等の連鎖倒産も生じるかもしれません。企業が倒産すれば、まだ使える設備機械がスクラップ業者に二束三文で買い叩かれるかもしれません。企業にはノウハウや顧客リストといったバランスシートに計上されていない「財産」も多数ありますが、そうしたものが雲散霧消してしまうのも大変にもったいないことです。
もうひとつ、内部留保の配当には「株主のリスクを銀行に押し付ける」という一面もあります。「資本金10、内部留保40、銀行借入50、資産100」という企業が49の損失を計上しても、それは株主の損失です。しかし、「資本金10、内部留保0、銀行借入90、資産100」という企業が49の損失を計上すれば、株主が10の損、銀行が39の損を被ります。
だから株主は内部留保を配当させたがる、という面もあるのでしょう。銀行としては、「損を押し付けられるなら、高い金利を払ってもらいたい」と考えるのでしょうが、銀行同士で貸し出し競争を繰り広げていると、なかなか金利を引き上げるのも難しい、という事なのかもしれませんね。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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