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ヒロシの生還
業者からは、1週間に1度LINEで、「ヒロシくんは元気でほかの入所者と仲良く暮らしています」というような簡潔な報告が届くだけでした。
友蔵さんは、「何年も親以外とまともに会話をしていなかったヒロシが、本当に共同生活などできているのだろうか」と心配で仕方がありませんでしたが、業者の報告を信じるしかありませんでした。
ところが、ヒロシさんが連れて行かれてから1ヵ月が経ったころ、突然ヒロシさんが自宅に帰ってきたのです。
友蔵さんと妻は、あまりに突然のことに驚きましたが、ひとまずヒロシさんが無事だったことに安堵し、涙を流しました。
ヒロシさんから施設の様子を聞くと、そこは郊外にある古びた一戸建てで、入所者はキャッシュカードなどをすべて取り上げられ、ヒロシさんを連れ出したような強面の男性たちに監視されながら生活していたといいます。そして、「社会に適応するためのプログラム」のようなものは、一切行われなかったということでした。
ヒロシさんは友蔵さんに、「あの業者は、いわゆる引き出し屋で、ただ郊外の家に住まわせて、コンビニのおにぎりやパンを与えるだけの生活で、3ヵ月400万円というのはおかしい」と訴えました。
友蔵さんは、自分のしたことが間違いだったと深く反省し、ヒロシさんに謝罪しました。
8050問題につけ込む悪徳業者
8050問題に悩む親の不安や悩みにつけ込む、悪質な業者は後を絶ちません。「引き出し屋」といわれる業者が、まさに友蔵さん・ヒロシさんのケースのような存在です。
こういったケースでは、契約前に業者が謳っていた内容と、契約後に実際に行われたサービスが異なる場合があります。たとえば、「集団生活のなかで社会に適応するプログラムを実施する」と説明しておきながら、実際にはそのようなプログラムは行われず、ただ住居と簡素な食事を与えるだけ、といったものです。
そうした場合、その契約は特定商取引法、消費者契約法の「不実告知」や、民法の「錯誤」「詐欺」に該当することがあります。これらに該当すると、契約相手である業者に対し、契約の取消しを主張し、支払った金額の返還を求めることになります。弁護士が代理人として、業者に対し、事実を指摘したうえで契約の取り消しおよび返金を求めれば、支払ったお金を取り戻せる可能性もあるのです。
実際、筆者が過去に扱ったケースでは、業者を被告とする損害賠償請求訴訟を提起し、支払った金額のほぼ全額を回収できました。
