「物」の壁|日本の商品やサービスが通用するのか?
「自社の商品は日本人向けに最適化されているから、海外では通用しないのでは…」という声はよく聞きますが、実は“日本ブランド”の信頼性や独自性は多くの国で強力な差別化要素になります。
たとえばマレーシアでは、日本人監修のヘルスケアサービスや飲食業でも、専門性の高い業態が積極的に展開されています。現地の富裕層にとって“日本式”というだけで高級・信頼・丁寧というブランドイメージが付加され、選ばれる確率が高くなります。
また、工芸品や職人系サービス、BtoBの技術商材なども評価されやすく、海外ニッチ市場ではむしろ高付加価値で売れる余地があります。ただしそのまま持ち込むのではなく、現地の文化や価格帯に合わせた“ローカライズ=翻訳力”が成功の鍵です。
「金」の壁──資金がない、失敗できない
「海外進出には莫大な資金が必要」「失敗したら会社が傾く」といった懸念もありますが、いまは“スモールスタート”が可能な時代です。たとえば、現地店舗への間借り出店や、既存法人とのジョイントでの検証フェーズを設けるなど、段階的な展開ができます。
また、法人設立・会計・決済などの初期インフラもオンラインで簡単に整備でき、予算感としては100万円以内でも試せるケースが増えています。
実は、多くの国ではスタートアップや外国企業の進出を後押しするために、助成金や税制優遇、就労ビザ支援などの制度が整備されています。こうした制度を活用すれば、海外展開にかかる実質的なコストを大幅に抑えることが可能です。
たとえば、シンガポールでは「Startup SG」プログラムを通じて、現地法人の設立や事業立ち上げに対する補助金や資金支援が提供されており、外国人起業家向けのビザ制度「EntrePass」も整っています。マレーシアでも「MDEC(Malaysia Digital Economy Corporation)」が、ITや製造業などの分野で税制優遇や人材育成支援を行っており、「MTEP(Malaysia Tech Entrepreneur Program)」によって外国人が最長5年の就労ビザを取得することも可能です。
また、アラブ首長国連邦(UAE)・ドバイでは、法人税ゼロ・外資100%出資可能な「フリーゾーン」制度が整備されており、現地での起業や事業展開がスムーズに進む環境が用意されています。特定分野のスタートアップには助成金やインキュベーション支援が提供されるほか、就労ビザ取得も比較的容易です。
このように、進出先の制度を調べて適切に活用することで、「海外だからコストがかかる」という常識は大きく変わりつつあります。
にもかかわらず、多くの失敗は「準備不足」ではなく、「情報不足」や「焦り」によって引き起こされています。
海外だからこそ、“段階的に試す”という姿勢と、正確な情報に基づいた判断が、事業成功のカギを握るのです。
最初の一歩は、小さくていい
人・物・金、どれか一つでも突破できれば、海外進出はぐっと現実味を帯びてきます。すべてを整えてから動こうとせず、小さくてもいいから一歩を踏み出すことが何よりも大切です。
まずは現地に行ってみる。現地の経営者と会って話してみる。テスト販売して反応を見る、そんな些細な行動が、やがてビジネスを大きく広げていく原動力になります。
中小企業こそ、時代の変化に柔軟であるべきです。「うちはまだ早い」と思うのではなく、「いまだからこそ試す価値がある」、そんな視点で、海外という選択肢を見直してみてはいかがでしょうか。
