資産承継対策の必要性
令和5年10月1日現在、日本の総人口は、1億2,435万人。そのうち65歳以上の人口は、3,623万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)も29.1%となっています。このように日本は世界でも稀にみる超高齢化社会といえます。
一方、遺言の作成状況は、全国の60歳から79歳の男女2,000人に対して行った日本財団の2022年調査(以下、日本財団調査)によると、遺言を作成済みとの回答をしたのは、全体の3.5%に過ぎません。
私が国際会議などで、日本が超高齢化社会なのにエステートプランニング(資産承継対策)は遅れていると紹介するのはこのためですが、それを聴いた欧米のエステートプランニング専門家からは、「まったく理解できない」という反応が返ってきます。
日本人が遺言を作成しない理由としては、「遺言を書くほどの財産を持っていない」ことが一番多く、それに、「遺言書を作るのは手間がかかる」「法定相続通りに分けてもらえばよい」という理由が続きます。
遺言を今後も作成しない理由としても、「遺言を書くほどの財産を持っていない」ことを筆頭に、「法定相続通りに分けてもらえばよい」「家族・親族がうまく分配してくれる」と類似の理由が続きます(前掲、日本財団調査)。また、高齢者の両親には、遺言を書けとはなかなかいえないという声も多く聴きます。
しかしながら、弁護士としては、紛争予防および残された法定相続人の負担を減らしたいのであれば、富裕層であろうがなかろうが、資産承継対策として少なくとも遺言の作成は必須である旨を助言させていただきます。
遺言作成をお勧めする理由の1つは、遺言がない場合、紛争可能性が高い遺産分割協議が必要になるからです。法定相続通りとしても、どの財産を誰が取得するのか、遺言がない場合は、法定相続人間で協議して遺産分割協議をする必要があります。
しかしながら、多くの場合この遺産分割協議を行うなかで相続人たちがもめます。遺産分割を嫌な気持ちにならずに終了することができたという言葉はほとんど伺ったことがありません。遺産分割をきっかけに、親族間の交流が断たれてしまった悲しいケースも少なくありません。
遺言作成をお勧めする別の理由は、遺言を作成する場合、通常は、現在の財産の棚卸しから始めますが、この作業により、最低限の相続に関するリスク検討が可能になるからです。
たとえば、資産が不動産ばかりである場合は、納税資金確保対策を検討することもできますし、相続税が課税されるほどの遺産がない場合であっても、不動産を含めた具体的な分配方法について検討することができます。
最近はお子さん・法定相続人がいないおひとり様も少なくないのですが、法定相続人がいない場合、遺言等で遺産の取得者を決めない限り、遺産は国庫に帰属してしまうことにもなります。
欧米では、移住、結婚、出産、離婚、再婚といった家族の大きなイベントを機に、遺言書の作成を検討する方が多く、20代、30代で遺言書を作成する方もいます。日本においては、遅くとも定年年齢を迎えられたら、暫定的でもよいのでまずは遺言を作成していただきたいと思います。
