お金が増えても「繰下げ」を選ぶ人が少ない理由
そんな老後の柱である年金を増やす方法があります。それが「繰下げ受給」といって、年金の受け取りを後ろ倒す方法です。
現在、年金の受給開始年齢は原則65歳ですが、60〜64歳の間に前倒しで受け取る「繰上げ受給」、66〜75歳の間に後ろ倒しで受け取る「繰下げ受給」も選択できます。
繰下げ受給では、1ヵ月繰下げるごとに0.7%ずつ年金額が増え、1年で8.4%、10年繰下げれば最大で84%の増額になります。
【繰下げによる増額率】
・66歳:8.4%
・67歳:16.8%
・68歳:25.2%
・69歳:33.6%
・70歳:42.0%
・71歳:50.4%
・72歳:58.8%
・73歳:67.2%
・74歳:75.6%
・75歳:84.0%
※昭和27年4月1日以前生まれ(または平成29年3月31日以前に老齢基礎(厚生)年金を受け取る権利が発生している)の人は、繰下げ上限年齢は70歳まで。増額率は最大で42%
たとえば、65歳から月10万円の年金を受け取れる人が、最大の繰下げ幅である75歳まで繰下げると、単純計算で月18万4,000円になります。差額は実に月8万4,000円、年間では非常に大きな差になります。
「繰下げれば年金が増える」という仕組みは、人生100年時代、働けるうちは働くという人も多い時代に、一見マッチしているように見えます。
ところが、厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業年報」(令和3年度)によると、繰下げ受給を選択した人は国民年金で1.8%、厚生年金では1.2%と非常に低い割合になっています。
理由はさまざまですが、多くの人が「自分が何歳まで生きるかわからない」と考えているからでしょう。年金の損益分岐点(=繰下げによる元が取れる年齢)を超えなければ、得をしません。70歳まで繰下げた場合、損益分岐点は81歳11ヵ月です。
もちろん、繰下げによって実際に得をする人もいるでしょう。「年金は保険のようなもの」と捉え、生活費を年金に頼らなくても済む人であれば、繰下げを選んでも後悔はしづらいかもしれません。
いずれにしても、繰下げ受給にはメリットもあればデメリットもあります。年金だけに頼らない老後資金の設計を考えながら、自分にとってベストな選択をすることが大切です。
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