まだまだ続く母の勝手な「契約活動」
次の日。起きたら昼近く。
さすがに寝すぎたな……。そう思いながら二階から下に行くと、また違うスーツの若い男がリビングでパソコンを開いて何やら母と話をしている。ちょっと、今日は今日で何なのよ。
「こちら米ドル建て保険です。いま円安ですからね、すごく利率がいいですよ」
「そうなの?」
「せっかくの保険金、この低金利時代に普通預金においておくのは損をします。生命保険の非課税枠もございますし、ぜひこのタイミングでお決めください」
「そうね、こんなに増えるならいいわよね、それで決めます」
え、何? 勝手に何か契約しようとしている?
「お母さん、ちょっと。何の契約しようとしているの?」
「あら、起きたのね。とってもいい保険よ。利回りがいいのよ。この契約、私が死んだ時の受取人はアユミちゃんにしておくからね。安心してちょうだい」
「どうも初めまして。楽々悠々生命のタカミと申します」
「はぁ」「では、こちらの契約書にサインを」
……なんだか腑に落ちないわ。
そのタカミとやらが帰ってから、契約書を確認した。いわゆる変額保険で、為替リスク※1がある商品で、どうも母が理解しているとは考えづらい。
「お母さん、これいくら入れたの?」
「1,000万よ」
「ええっ、イッセンマンエン?」
「そうよ、だって元本保証って言っていたもの。大丈夫よ」
「大丈夫じゃないわよ、よく読んでよ。米ドルでは固定って書いているけど日本円に変更するときの為替リスクがありますって書いてあるわよ!」
「え、だってタカミさんが固定ですって言うから……」
そうだ、確かこういうのってクーリング・オフ制度があるじゃない! 8日以内なら、間に合うって契約書に書いてあった気がする!
私はクーリング・オフの手続きをした。よしよし、これで1,000万円が戻ってくるわね。母は、「せっかくいい保険なのに……」と悲しそうな顔をしていたけれど、そんなうまい話があるわけがない。
