アイデアソンで「初めて自由に意見を出し合えた」例も
多様な人々がアイデアというアウトプットを目指して対話を進められることも、アイデアソンの魅力である。自治体職員と住民の間でアイデアソンを行うと、「初めて相手の声を聴けた」「自由に意見を出し合えた」という反応が多い。
アイデアソンを体験した人々の実感として、対話を生み出すことへの期待は大きい。地方でアイデアソンを体験した集団が、東京に場を移して首都圏の人々とアイデアソンを行おうという動きも出始めている。
これらの動きは、日ごろの集団から外に向かって対話のチャネルを開く手段として、アイデアソンを活用しようとするものである。
異なる分野の専門家の「対話」が起こりにくい理由
あるアイデアソンでは、広告業界のデザイナーとIT業界のエンジニアを参加対象とした。両者とも、「エンジニア(デザイナー)と対話をするには、拘束時間に合わせてフィーを求められると思っていた」という声があり、その反面「自分が対話を呼びかけられても、フィーを求めることはない」とも述べていた。
どちらかが声をかければ、フィーを払わずとも対話の扉は開けることに、お互いが気づけずにいたということになる。
異なる分野同士での対話が、これほどまでに起こりにくいものか。
Webサイトやアプリケーションを作る際には、デザイナーにもエンジニアにも出番はあるはずだが、制作全体をコントロールするリーダーがいれば、作り手側はその指示に従えばよい。明確な役割分担で分業が進めば、自分の専門以外の領域の人々との対話の機会は、自ずと少なくなっていく。
受託制作であれば、デザインと開発で別々の会社が請け負っているケースもあり、両者の壁はさらに厚くなる。大きな組織であれば、いわゆる縦割りの問題で同様のことが起こり得る。
しかし、ビジネスの世界では、こうした壁を破り、異なる専門性を持ち寄った小規模なチームが、スピーディに事業を立ち上げるケースも目立ち始めている。
ITの分野でよく見られるスタートアップがその典型だ。プランナー、デザイナー、エンジニアの三者が、迅速にサービスのプロトタイプを作り、顧客や支援者、ともに事業を展開する仲間などを集め、急成長を狙う。
最近は、そうしたスタートアップを狙う小規模チームを、大手企業が支援するプログラムも増えている。規模が大きくなった企業でも、社内に疑似的なスタートアップの小規模チームを作り、サービスの成長を競い合うケースもある。スタートアップをもくろむ人々が、仲間探しやアピールの場として活用する例も出てきている。
だれかのコントロールで、その下にいる人同士のコミュニケーションを必要としない分業型から、当事者同士がアイデアを出し合い、スピーディにプロダクトなどの形を生み出す共創型へ、関心がシフトしているのが近年の風潮だ。
アイデアを出し合うことが、対話のスタートに位置づけられ、次の行動につながる。共創を求め始めた人や組織が、場づくりの模索としてアイデアソンを企画するケースが増えている。
アイデアソンへの大きな期待は、反面、効果とのミスマッチを引き起こす可能性もある。アイデアを出すだけでは意味がないという指摘があるのも事実だ。実際、アイデアは形にしなければ価値を生まないし、価値創造へたどりつくまでには、試行錯誤を含めさまざまなプロセスと期間を要する。
そのプロセスを「線」に例えるならば、アイデアソンはその線の中に打たれる「点」に過ぎない。