家計は回復、製造業は悪化…内閣府は判断据え置き
25年5月の「景気ウォッチャー調査」で、現状判断DI(季節調整値)は前月差1.8ポイント上昇の44.4になりました。5ヵ月ぶりの上昇です。北関東の百貨店店長の「少し前までは、米国の関税政策に右往左往し、消費は慎重で様子見状態だったが、ここにきて落ち着きを取り戻し、通常に戻っている。実際、来客数や客単価は回復傾向にある」というコメントに代表されるように、トランプ関税の懸念がやや和らぎ、家計動向のDIは44.1と前月から2.5ポイント上昇しました。
もっとも、トランプ関税の悪影響は引き続き大きく、企業動向の製造業のDIは43.2と前月から▲3.0ポイント低下しました。中国の電気機械器具製造業・総務担当は「米国の関税の影響もあり、車載向け製品の受注量が減少している。また、液晶関連装置は引き続き生産調整が続いている」とコメントしています。
先行き判断DI(季節調整値)は、前月差2.1ポイント上昇の44.8でした。こちらは6ヵ月ぶりの上昇です。
なお、原数値でみると、4月現状判断DIは前月差0.2ポイント上昇の44.8となり、先行き判断DIは前月差2.7ポイント上昇の46.1になりました。
内閣府の5月の現状に関する基調判断は、「景気は、このところ回復に弱さがみられる」で、3月の「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、このところ弱さがみられる」から下方修正された4月と同じ判断でした。
一方、先行きについて、5月は「夏のボーナスおよび賃上げへの期待がある一方、引き続き価格上昇や米国の通商政策の影響への懸念がみられる」。4月の「賃上げへの期待がある一方、従前からみられる価格上昇の影響に加え、米国の通商政策の影響への懸念が強まっている」に、夏のボーナスへの期待が加わりました。
好調・沖縄はインバウンド景気で50超
地域別にみた5月の現状判断DIでは沖縄だけが4月に続き2ヵ月連続50超になりました。沖縄は4月に51.5と3ヵ月ぶりの50超になり、さらに5月は58.3へと6.8ポイント上昇しました。また一方、沖縄の先行き判断DIは55.8になりました。21年9月以降3年9ヵ月連続50超が続いています。「ゴールデンウィークでファミリー層とインバウンド客が増加している」という沖縄の百貨店・経営担当のコメントがありました。
物価高への懸念は続くが、「野菜価格の安定」で先行きに期待
5月「価格or物価」関連現状判断DIは36.5で4月から0.1ポイント低下し、23年1月の35.1以来の低い水準になりました。現状判断のコメント数は3月の276名から4月は317名へと増加しましたが、5月は275名になり、今年最少です。
5月「価格or物価」関連先行き判断DIは42.3で4月の37.4から4.9ポイント上昇しました。「野菜の価格が落ち着いてきたため、消費も上向くことを期待する」という、東海の一般レストラン・従業員のコメントがありました。
「関税」DIは依然として低水準
5月もトランプ大統領の関税に関する朝令暮改的な言葉に振り回されました。不透明感が景気ウォッチャーのなかで強い状況です。5月調査「関税」関連DIは現状判断DI38.6、先行き判断DI39.2と、ともに3ヵ月連続30台の低水準になりましたが、4月よりは各々5.9ポイント、4.6ポイント上昇しました。4月のコメント数は現状判断104名、先行き判断249名とどちらも3ケタでしたが、5月は現状判断68名と2ケタで、先行き判断は157名に鈍化しました。
好調に陰り?「インバウンド」現状DIがコロナ禍以来の50割れ
25年1月の「外国人orインバウンド」関連の現状判断DIは55.9、同先行き判断DIは55.6で、どちらも12月の60台から揃って50台に低下しました。2月の「外国人orインバウンド」関連の現状判断DIは53.6、同先行き判断DIは59.5。3月「外国人orインバウンド」関連の現状判断DI、同先行き判断DIとも56.2で50台でした。4月の「外国人orインバウンド」関連の現状判断DIは51.1、同先行き判断DIは50.6で、なんとか景気判断の分岐点を上回る50超とともに景気判断の分岐点50をわずかに上回る、パッとしない水準に低下していました。
5月「外国人orインバウンド」関連の現状判断DIは49.4、同先行き判断DIは50.0で、ついに両DIとも景気判断の分岐点を上回ることができなくなりました。こうした状況は、新型コロナウイルスの影響が出ていた22年2月の現状判断DIは31.3、同先行き判断DIは50.0以来の、極めて異例の事態です。
「入店客数は前年並みであるが、買上客数が約10%減少しており、特に外国人客の売上が苦戦している。前年は為替が1ドル150円台後半であったのに対し、今年は10円近い円高となっていることが影響している」という、近畿の百貨店・売場統括のコメントが現状判断でありました。
「万博」への期待は衰えず、DIは50超をキープ
5月の「万博」関連現状判断DIは53.8と4月の50.6を3.2ポイント上回りました。コメント数は39名で4月と並び最高に。5月の「万博」関連先行き判断DIは53.5になりました。コメント数は50名で、最高だった4月の60名を下回りました。「万博」関連DIは現状判断、先行き判断とも景気判断の分岐点の50を上回る状況が続いています。
「小泉農水相」のコメ対策が影響か…先行きDIは大幅上昇
5月「景気ウォッチャー調査」の調査期間は5月25日から31日なので、小泉進次郎農水相就任後でした。小泉氏は就任直後からスピード感あふれるコメ対策を実施しました。「備蓄米」を随意契約による放出に切り替え、5kgの販売価格2,000円程度を実現しました。
こうしたことが5月「景気ウォッチャー調査」にも反映され、「備蓄米」に関する先行き判断コメント数が33名と、4月の7名から増加しました。また、5月「備蓄米」先行き判断DIは49.2と景気判断の分岐点50に接近、39.3だった4月から9.9ポイント上昇しました。
※なお、本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。
宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)
三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。23年4月からフリー。景気探検家として活動。現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。
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