ウクライナ出身力士が初優勝した九州場所、「合計2,000本超」もの懸賞が集まったワケ【解説:エコノミスト宅森昭吉氏】

景気の予告信号灯としての身近なデータ(2025年11月23日)

ウクライナ出身力士が初優勝した九州場所、「合計2,000本超」もの懸賞が集まったワケ【解説:エコノミスト宅森昭吉氏】
(※画像はイメージです/PIXTA)

ウクライナ出身力士初の優勝、大の里の年間最多71勝、懸賞本数は初の2,000本台――。令和7年の九州場所は、記憶にも記録にも残る活況となりました。特に、前年比+22.4%と急増した懸賞本数は、企業の懐事情が「インフレ下でも堅調である」ことを示唆する重要な経済指標です。本稿では、記録づくめとなった九州場所のデータから、エコノミストの宅森昭吉氏が日本経済の底力を読み解きます。

ウクライナ出身力士初の快挙!関脇・安青錦が初優勝、大関昇進も確実に

関脇・安青錦が、本割で大関・琴桜に勝ったあと、12勝3敗同士の横綱・豊昇龍との優勝決定戦を制し初優勝。場所後に大関昇進が確実に。

 

大相撲令和7年(2025年)九州場所では優勝決定戦で関脇・安青錦が横綱・豊昇龍に送り投げで勝利し、12勝3敗での初優勝を決めました。ウクライナ出身力士の優勝は初めてです。優勝力士輩出国としては日本、米国、モンゴル、ブルガリア、エストニア、ジョージアに続いて7ヵ国目となりました。

 

14日目を終えて、横綱・大の里、横綱・豊昇龍、関脇・安青錦の3人が11勝3敗で並んでいましたが、大の里が左肩鎖関節を負傷し千秋楽を休場しました。結びで大の里と対戦予定だった豊昇龍が不戦勝となり、安青錦が大関・琴桜に内無双で勝って優勝決定戦に。初土俵から14場所での初優勝は、年6場所制が定着した1958年以降では2024年春場所の尊富士の10場所に次ぐ2番目(付け出しを除く)のスピード記録です。

 

安青錦は、九州場所が三役2場所目でしたが、新入幕だった今年春場所から5場所連続で11勝以上を記録しています。審判部が昇進を諮る臨時理事会の招集を八角理事長に要請し、受諾されたことで安青錦の大関昇進が確実になりました。初土俵から所要14場所での大関昇進となれば、年6場所制定着以降で付け出しを除くと、琴欧州の19場所を大幅に上回り、最速となります。

 

安青錦は7歳から相撲を始め、2019年の世界ジュニア相撲選手権大会で3位になっています。2022年2月にロシアのウクライナ侵攻が始まったことから、相撲を続けられる環境を求めて2022年4月に来日しました。世界ジュニア選手権で知り合った関西大学相撲部主将の自宅に住んで、関西大学や報徳学園の相撲部で練習、報徳学園監督が大相撲の安治川親方に紹介したとのことです。

 

「安青錦新大」の「安」と「錦」は安治川親方の現役時代の四股名「安美錦」から、「青」はウクライナの国旗の色、「新大」は日本で一緒に生活した当時関西大学相撲部主将の山中新大氏から採ったといわれています。安青錦の初優勝と大関昇進は、母国に大きな勇気を届けたと思われます。

 

出所:各種報道
[図表1]2025年、大相撲各場所の幕内最高優勝者 出所:各種報道

大の里、71勝で「年間最多勝」…4年ぶりの70勝台到達

大の里は71勝で、77勝の照ノ富士以来4年ぶりの70勝台での令和7年(2025年)の年間最多勝に。

 

14日目まで優勝争いのトップを並走しながら、残念ながら千秋楽を怪我で休場した大の里は71勝で令和7年(2025年)の年間最多勝になりました。師匠の二所ノ関親方(元横綱・稀勢の里)の69勝を超えたかたちです。年間70勝台は過去10年間では、関脇から横綱まで一気に番付を上げ77勝した令和3年(2021年)の照ノ富士しか届いていない大台。この年の照ノ富士は年4回優勝しましたが、今年の大の里は年3回の優勝にとどまりました。

 

出所:スポーツニッポン(2016年11月28日)に筆者加筆
[図表2]最近の大相撲年間最多勝 出所:スポーツニッポン(2016年11月28日)に筆者加筆
*令和2年は夏場所中止、年5場所

九州場所の懸賞本数、初の2,000本台に…企業の収益好調を反映

九州場所の懸賞本数は2,041本、前年同場所比+22.4%で、企業の広告費、収益の好調さを裏付け。

 

九州場所の懸賞本数は2,041本で九州場所初の2,000本台に。昨年の九州場所の懸賞本数は1,667本だったので、前年同場所比は+22.4%の2ケタの伸び率で14場所連続増加になりました。横綱・大の里の千秋楽休場に伴い、横綱・豊昇龍戦の懸賞45本のうち30本が懸け替えられ、19本が大関・琴桜と関脇・安青錦の取組に回っています。残り15本は取り止めになりました。九州場所の懸賞本数は、企業の広告費、収益の好調さを裏付けています。 

 

出所:日本相撲協会、各種報道
[図表3]最近の大相撲本場所懸賞本数推移 出所:日本相撲協会、各種報道

※令和6年秋場所、事前申し込み2,628本、実績2,455本。令和7年秋場所、事前申し込み3,108本、実績2,926本、ともに過去最高。

※令和6年九州場所、事前申し込み1,767本、実績1,667本。令和7年九州場所、事前申し込み2,177本、実績2,041本、ともに九州場所過去最高。

 

九州場所の事前申し込み本数は2,177本で前年九州場所の事前申し込み本数1,767本を前年同場所比23.9%と23%台だったのです。千秋楽結びの横綱同士の一番に懸かる予定だった45本のうちの15本の取り消しがなければ、実績の前年同場所比も23%台のはずでした。

 

九州場所で一番多く懸賞を獲得したのは、秋場所で519本と自己最高本数を更新していた横綱・大の里の317本です。第2位は横綱・豊昇龍の249本で、第3位は優勝した関脇・安青錦の128本でした。千秋楽結びの一番となった大関・琴桜との一番には42本の懸賞が懸かりました。 

 

出所:日刊スポーツ
[図表4]大相撲九州場所懸賞獲得ベスト5 出所:日刊スポーツ

 

※なお、本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。

 

 

宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)

三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。23年4月からフリー。景気探検家として活動。現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。

 

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