景気ウォッチャー調査、振り返ったら見えてきた…「新型コロナウイルス」蔓延時の景況感、改善の兆しの早期把握

景気ウォッチャー調査、振り返ったら見えてきた…「新型コロナウイルス」蔓延時の景況感、改善の兆しの早期把握

約40年にわたり国内外の景気分析をしてきたエコノミスト・宅森昭吉氏が、景気や市場を先読みするヒントを紹介する本連載。今回は、新型コロナウイルス蔓延時における景況感の抑制要因について解説します。

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歴史的にも「流行病・災害」発生多数の干支、庚子(かのえね)

2020年の干支は「庚子(かのえね)」であった。歴史学研究会編『日本史年表』(岩波書店)で、60年周期の「庚子」の出来事を遡ってみたところ、1360年の「この年、疫病流行」や、1540年6月に「諸国に悪疫流行、天皇、般若心経を書写し、三宝院義堯に祈祷させる」という流行病や災害の記載が多かったため懸念していたところ、新型コロナウイルスの感染拡大という事態が発生してしまった。

 

WHOは2020年1月31日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。中国政府の国家衛生健康委員会は2月3日、新型コロナウイルスによる肺炎の中国本土での死者が、2日までに361人に増加したと発表した。この時点で、2002年~2003年に流行したSARSでの中国本土の死者349人を上回った。

 

「景気ウォッチャー調査」を使って2003年の「SARS」関連コメントDI(動向指数)の推移をみると、SARSに関するコメントは3月調査で初めて登場し、5月調査が現状125、先行き188と最もコメント数が多かったが、SARSが終息方向に向かうとコメント数が減少し9月調査では1桁に低下した。

 

「SARS」関連現状判断DIは3月~6月までは景気判断の分岐点の50を下回っていたが、7月・8月では60台まで上昇した。SARSのマイナスの影響が2003年当時は比較的短期間で小さくなっていたことがわかる。しかし、「新型コロナウイルス」は「SARS」とは比べ物にならない悪影響をもたらした。

感染拡大を懸念する景気ウォッチャーのコメント、多い時は過半数

「景気ウォッチャー調査」に初めて「新型コロナウイルス」という言葉が登場したのは2020年1月調査であった。

 

「中国の新型コロナウイルスによる肺炎が収束しない限りは、客は国内移動も控えているようで、とても経済が活性化していく状況にはなっていない。とにかく大変である。」(南関東:旅行代理店 経営者)

 

このコメントに代表されるような、中国中心に感染が拡大している状況を懸念するものが多くみられた。ただし、なかには、

 

「現在、新型コロナウイルスの発症で、特定の商品の売行きが良くなっているので、今後、その影響が売上増に現れてくるかもしれない。東京オリンピックに向けての需要の拡大も期待される。」(四国:スーパー 店長)

 

という後から見ると呑気なコメントもあった。

 

2020年1月の「景気ウォッチャー調査」で「新型コロナウイルス」に言及したウォッチャーは有効回答者1,837人中、現状判断で97名、先行き判断で345名に上った。2003年のSARS発生時では最大コメント数は5月調査の、現状判断125名、先行き判断188名だったので、先行きに関して、インバウンドの減少、サプライチェーンの寸断などの「新型コロナウイルス」の影響を心配する人が初登場時ではるかに多いことがわかる。

 

「新型コロナウイルス」関連判断DIを作成してみると、分岐点の50を下回り、現状判断DIが29.1、先行き判断DIが29.9となった。現状判断で「新型コロナウイルス」に言及した人の割合は、全国平均で5.3%だったが、これを上回った地域は、近畿11.6%、北海道9.2%、沖縄7.9%、九州6.6%の4地域で、いずれも中国人観光客のインバウンド需要が大きい地域だった。

 

調査期間が3月25日~31日で、4月7日からの初の緊急事態宣言が発出される直前のタイミングだった2020年3月「景気ウォッチャー調査」は、「新型コロナウイルス」の感染拡大が経済に大打撃を与えていることを示唆するものになった。現状と先行き、現状水準の3つの景況判断DIがそれぞれ前月から悪化、いずれも過去最悪の数字となった。「新型コロナウイルス」感染拡大で、景気判断が一段と厳しさを増したのが見て取れる。なかでも、飲食関連の現状水準判断DI(当時の季節調整値)は0.0となった。0.0という数字は「景気ウォッチャー調査」史上初めてだった。

 

原数値は4.0で、季節調整をかけると0.0になった。0.0は全員が「悪い」と答えたことを意味する、極めて厳しい数字だ。2020年3月の「景気ウォッチャー調査」で現状判断DI(当時の季節調整値)は前月比13.2ポイント低下して14.2になった。リーマンショックで世界的経済危機に陥った2008年12月の19.0を下回り、季節調整値で遡れる2002年1月以降で最悪の水準だった。

 

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛やサプライチェーンの混乱で、個人消費や企業活動が停滞し、景気に大打撃となっていることが明らかになった。先行き判断DIは5.8ポイント低下の18.8と、2008年12月の21.3を下回って過去最低になった。現状判断DIは良くなった、悪くなったという方向性のデータであるが、現状判断には良い、悪いという水準についてのデータである現状水準判断DIというものもある。

 

この指数の最低はこれまで2009年2月の16.4だったが、3月ではそれを0.1ポイント下回り、16.3の最低記録を更新した。

 

先行き判断で「新型コロナウイルス」についてコメントした景気ウォッチャー数は2020年1月345名、2月1,059名から3月1,085名に拡大した。3月の1,085人には全体の59%にのぼった。ここが過去最大だ。「新型コロナウイルス」関連現状判断DIをつくってみると、2020年1月29.1、2月17.5から3月は12.0へ悪化した。「新型コロナウイルス」関連先行き判断DIは2020年1月29.9、2月20.4から3月は16.3へと悪化した。「新型コロナウイルス」関連判断DIは現状、先行きとも全体の判断DIを下回った。

 

(出所)内閣府「景気ウォッチャー調査」から作成
[図表1]新型コロナウイルス関連判断DIの推移 (出所)内閣府「景気ウォッチャー調査」から作成

「新型コロナウイルス」関連現状判断DI、持ち直した時期は?

「新型コロナウイルス」関連現状判断DIは2020年4月を底に、先行き判断DIは2020年3月を底に、ともに持ち直した。2022年になると、景気判断の分岐点である50を上回ることが多くなった。

 

「新型コロナウイルス」の感染症法上の位置付けが、2023年5月8日に「2類相当」から「5類」に引下げられた、「新型コロナウイルス」関連先行き判断DIは引下げ前の2023年3月66.6、4月66.7と高水準のDIになった。経済正常化への期待が大きかったことがわかる。2023年の「新型コロナウイルス」関連判断DIは、現状も先行きもすべての月で50を上回る一方で、コメント数は低下が続き、景況感への影響力はだんだん小さくなっていった。先行き判断のコメント数が2ケタに低下したのは、2023年10月、83人だった。11月で75人、12月で58人とさらに少なくなった。「新型コロナウイルス」は景況感に大きく影響を与える材料ではなくなっていった。

 

2024年10月に先行き判断で「新型コロナウイルス」関連のコメントが9名と初めて一桁に低下した。その後2025年4月までの7ヵ月間で一桁は5回、直近、2025年4月は3名で最低を更新した。

 

(出所)内閣府「景気ウォッチャー調査」から作成
[図表2]新型コロナウイルス・先行き判断コメント数 (出所)内閣府「景気ウォッチャー調査」から作成

 

現在の季節調整値で、全体の現状判断DIをみると、2020年4月の8.7が2000年からの統計史上最低で、2021年12月の58.5が史上最高である。「新型コロナウイルス」の影響が大きかったことがわかる。

 

また、「新型コロナウイルス」が登場した2020年1月から2025年4月までの期間で、緊急事態宣言、または、まん延防止等重点措置発令月の平均は35.1、非発令月の平均47.9で12.8ポイントの差がある。経済活動を制限する、緊急事態宣言、まん延防止等重点措置発令が景況感の抑制要因になったことがわかる。

 

(出所)内閣府 ※2020年1月~2025年4月の緊急事態宣言またはまん延防止等重点措置発令月(調査対象期間に発令が解除されていた月を除く)、平均:35.1/非発令月:平均47.9
[図表3]景気ウォッチャー調査:現状判断DI(方向性)季節調整値 (出所)内閣府
※2020年1月~2025年4月の緊急事態宣言またはまん延防止等重点措置発令月(調査対象期間に発令が解除されていた月を除く)は濃い青

 

宅森 昭吉
景気探検家・エコノミスト
景気循環学会 副会長 ほか

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