アメリカ人初のローマ教皇に「確定申告義務」?…アメリカ市民なら避けられない税制の落とし穴【国際税理士が解説】

アメリカ人初のローマ教皇に「確定申告義務」?…アメリカ市民なら避けられない税制の落とし穴【国際税理士が解説】
(画像はイメージです/PIXTA)

今年5月のコンクラーベ(新しいローマ教皇を決める選挙)の結果、初めてアメリカ人がローマ教皇になったというニュースは、世界各国のメディアの注目を集めました。この歴史的出来事の陰で、国際的な税制の矛盾と複雑さが改めて注目を集めています。アメリカの税法では、市民権を持つ者は全世界所得を対象に確定申告を行う義務があり、その対象に教皇のような宗教的権威者も例外ではないという見解が存在します。さらに、外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)に基づく報告義務が、バチカンの金融機関にも波及する可能性があるとして、専門家や各国メディアが議論を呼んでいます。

バチカン銀行がアメリカ政府に乗っ取られる!?

議論の背景には、2010年にアメリカで施行された「外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)」の存在があります。これによりアメリカ国外の金融機関は、アメリカ市民が保有する金融資産口座情報をアメリカ政府に報告しなければならなくなりました。バチカンも2015年にこの協定に署名しています。

 

そのため、新ローマ教皇レオ14世がアメリカ市民である限り、彼の海外金融口座の残高が1万ドルを超えた場合、すべての口座情報をアメリカ政府に報告しなければならないのです。さらに、教皇がバチカン銀行のサイナー(日本でいう口座名義者・押印者)であることから、「バチカンの口座そのものをアメリカ政府に開示する義務があるのではないか」という懸念が浮上しています。

 

つまり、「教皇がアメリカ人である限り、バチカンの金融活動がアメリカ政府の監視下に置かれるのではないか」という問題が、今まさに議論を呼んでいるのです。

アメリカの法律に振り回される世界

筆者の私見では、これはアメリカの国内法に起因する問題であり、本来であれば他国の元首や宗教指導者には適用されるべきではありません。しかし、関税問題に代表されるように、現代の国際社会においては、各国がアメリカに配慮せざるを得ない構造があるのです。

 

WSJによると、レオ14世は1981年、20代の時に聖アウグスティヌス修道会に入会し、「清貧の誓い」により財産所有の権利を放棄し、すべてを教会に返却したとされています。

 

聖アウグスティヌス修道会の財務担当者によれば、聖職者の収入はすべて教会が直接受け取り、贈与品も教会に渡されており、レオ14世本人の確定申告記録も存在しないといいます。Social SecurityやMedicareも教会が代行して支払っており、アメリカの税法上、聖職者は確定申告の義務を免除されているとのことです。

 

では、聖職者の住居、食事、衣服、旅行などは課税対象ではないのかという疑問が残りますが、これらも「自らの選択によるものではなく職務上の必要性によって支給されている」とされ、非課税扱いとなっています。これは軍人にも共通する規定です。

それでも残る申告義務

では先ほどの「確定申告」の話はどうなるのでしょうか。専門家の間では、「詐欺的行為の防止や、時効を成立させるためにも申告はしておいたほうがいい」という意見がある一方、FATCAに基づく海外金融口座の開示義務は残るため、問題は複雑化の一途をたどっています。

 

このような事情を背景に、「教皇がIRSの監視から逃れるためにアメリカ市民権を放棄するのではないか」といった見解も一部メディアで報じられています。これが実現すれば、「海外在住のアメリカ市民に課される税制は理不尽だ」という問題意識がさらに高まり、制度改革の議論が活性化する可能性もあります。

 

実際、トランプ前大統領も過去に「海外居住アメリカ人の二重課税問題について税制改革を行いたい」と発言しています。

 

この問題は日本ではほとんど報道されていませんが、アメリカでは多くの市民が関心を寄せている重要なテーマです。トランプ政権が掲げる減税政策のなかで、この税制問題にも本格的に取り組むのかどうか、今後の動向が注目されます。

 

 

税理士法人奥村会計事務所 代表

奥村眞吾

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