(※写真はイメージです/PIXTA)

本稿は、チーフグローバルストラテジスト・白木久史氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。

「ガバナンス」の観点から見た「令和の米騒動」

集出荷業者や米穀卸の業績は、コメ価格の上昇がプラスに働く可能性が指摘できそうです。というのも、単価が上昇して米の流通金額が膨れ上がるにつれて、売買手数料にあたる口銭は増加していきますし、サプライチェーンに留まる中間在庫に評価益が生じることになるからです。つまり、農協や米穀卸からすれば、「コメ価格が上がってほしい」と願うのは、コメ流通を生業としている以上は自然な思いと言えそうです。

 

一般的に、商品の価格が市場の需給を反映して変動するのはごく自然な動きといって良いでしょう。しかし、同業者間で販売価格を相談したり、申し合わせて出荷を絞るようなことがあれば、それは法的、道義的に許容されるものではないでしょう。

利益相反と構造的なガバナンス不全の可能性

農水省には公正なコメ取引や価格形成について、公正取引委員会とともに業界を管理監督する立場にあります。そんな農水省が2005年に取りまとめた「全農改革」では、「農林水産省の幹部職員が全農の役員に就職するという 、いわゆる『天下り』は今後とも行わないということをこの際明言する(全文まま)」と宣言しています。しかし、内閣府の公表資料によれば、2009年以降だけで28人もの農水省OBがJA全農や農協の関連団体に天下りしていると報じられています。

 

本来なら、コメ流通の「アンパイア」として業界の「プレーヤー」を管理監督する農水省の利害がプレーヤーと一致してしまうと、そこには利益相反やガバナンスの不全が生じかねません。もし、こうした懸念が的外れでないなら、仮に不公正な取引があった場合でも、十分な牽制機能が働かない可能性がでてきます。

 

マーケット視点でコメの「需給」「市場構造」「ガバナンス」について見ていくと、現在の異常ともいえるコメ価格の上昇はある種の必然であると同時に、「令和の米騒動」はなかなか収まらないようにも思えてきます。

 

「軍隊は胃袋で進む(Une armée marche sur son estomac)」として、戦争における兵站(へいたん)の重要性を説いたのはフランスの皇帝ナポレオンです。「令和の米騒動」で日本経済の兵站・補給に支障が生じるようなことがあれば、今後の景気動向や金融市場に少なからず影響を与える可能性があるため注意が必要でしょう。

まとめに

コメ価格が1年で倍になるような記録的な価格高騰が続いていますが、生活必需品である食品価格の上昇は実質賃金の低下をもたらすとともに、裁量的な消費支出を減少させることで日本経済に影響を与えつつあるように思われます。

 

「令和の米騒動」をマーケット視点で分析すると、その記録的な価格高騰の背景には、「需給」「市場構造」「ガバナンス」の3つが相乗効果で作用しているように思われます。

 

「令和の米騒動」が長引くことで日本経済の「兵站」が滞るようなことがあれば、今後の景気動向や金融市場に少なからず影響を与える可能性があり注意が必要でしょう。

 

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

 

※当レポートの閲覧にあたっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『マーケット視点で読み解く「令和の米騒動」記録的な高値が続く米価と金融市場【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】』を参照)。

 

白木 久史

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフグローバルストラテジスト

 

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