コメ流通の「市場構造」と「ガバナンス」
コメ価格の急騰の背景に「需給の引き締まり」があるとしても1年でほぼ倍にまで上昇するのは、需給バランスだけでは説明がつかない部分があるように思われます。そこで、コメの需給以外に価格に影響を与えそうな要因として、コメの流通の「市場構造」と「ガバナンス」について確認してみたいと思います。
農協の圧倒的なプレゼンス
農水省のデータによれば、2022年の主食用うるち米の生産量は約653万トンですが、そのうち農家による自家消費や直接販売を除く約303万トンが、「集荷、検査、精米、加工」を行う集出荷業者に集められ、卸売業者を経てわたしたち最終消費者に届けられます。そうした集出荷業者が扱う主食用米の約94%、約284万トンが農協経由で流通しているとされています[図表3]。
また、農協は集出荷業者としてコメ流通に関わるだけでなく、卸売業者としても市場に参加しています。農協の全国組織である全国農業協同組合連合会(JA全農)の子会社である全農パールライス社は年商約1,200億円、年間の米取扱量35.6万トン(2024年3月期)を誇る日本トップクラスの米穀卸売業者で、全国43カ所の精米工場を構えています。
昨今、こうした米穀卸のビジネスは、コメ価格の上昇が大きな追い風となっているようです。例えば、米穀卸大手で東証プライムに上場する株式会社ヤマタネの決算を見ると、同社の食品カンパニー部門の業績はコメ価格の高騰などを背景に、売上は2年前の約210億円から2025年3月期には約496億円へ約2.4倍に急増し、営業利益は同約74百万円から約31.7倍の約2,351百万円に急拡大しています[図表4]。
また、JA全農や全国各地の農協は、全農パールライスのような子会社を通じてだけでなく、自らも米穀卸として小売りや外食産業などと取引しています。例えば、イトーヨーカドーが扱う自社ブランド米「あたたかのお米」は、JAみなみ魚沼やJA稲敷から直接仕入れているようです。また、牛丼チェーンの吉野家は、JA全農や農協を通じて生産者ともやり取りしながら、独自の「牛丼にあうブレンド米」を調達しているとされています。
こうしてみると、農協は集出荷業者としてコメ流通の中心で圧倒的なシェアを持つだけでなく、米穀卸としても市場に強い影響力を有している可能性が指摘できそうです。このように、コメ流通のサプライチェーンにあって他のプレーヤーを圧倒する農協の市場シェアや存在感は、コメ価格の高騰が利益の拡大につながる収益構造と併せて考えると、需給のひっ迫によるコメ価格の変動を増幅してしまう可能性がありそうです。



