過去の裁判例に学ぶ判断の分かれ目
1. 一人親方の事例(外注化した作業員) 東京地裁令和3年2月26日判決
この事例では、建設業(塗装工事業)の作業員2名から「手取りが減る(給与だと社会保険料が天引きされる)ので外注扱いにしてほしい」と求めがあり、会社は2名を従業員から外注(業務委託)扱いに変更しました。(その後、2名とも再び従業員に復帰)
会社は外注扱いとしていた期間の2名への支払いを外注費として、消費税の仕入税額控除を受けていましたが、税務調査で「それらは給与なので課税仕入れに当たらない」と仕入税額控除が否認されました。
会社は処分取消の訴訟を起こしましたが、東京地方裁判所でも2名は給与に該当すると判断されました。
2名は会社や元請けの具体的な指示を受けて業務を行っていたことから指揮命令関係があり、会社の指示で残業を行っていたことから勤務時間の拘束もありました。また、報酬も従業員だった時期と同様の日数単価で計算されており、2名が休むときは会社が代わりの者を手配していたことから代替性もありませんでした。
さらに、機材等の費用負担についても、作業員はコテやヘラなど道具箱に入る程度のものしか用意しておらず、高価な工具は会社側が用意していました。
形式上は請負契約としていても、実態が変わらなければ給与とみなされる典型例といえるでしょう。
2. トラック運転手の事例 札幌高裁令和2年11月12日判決
次はもう少し判断が難しい事例を紹介します。
北海道で運送業を営む会社が、自社のトラック運転手の一部を「償却制社員」と呼び、一般の従業員とは異なる待遇で働かせていました。償却制社員の運転手には出来高(運送荷物の取扱量)に応じて報酬を支給し、給与ではない前提で源泉所得税を天引きせず処理していたところ、税務調査でそれが否認されました。
会社は処分取消を求めて提訴しましたが、札幌高等裁判所でも給与と認定されています。
償却制社員たちは、自分名義で購入したトラックなどを減価償却する間、専属で会社の運送業務に従事する契約でした。上述のとおり報酬は出来高払いで、他の運転手に自分の担当業務を委託することも社内規程上はできた(他者への委託が常態化していたわけではないが)ため、ある程度の独立性はありました。
しかし、雇用社員と同じく毎日の配送先・時間等について会社の細かな指示を受けていたため指揮命令関係があり、勤務時間や運行ルートなどの時間的・空間的拘束を受けていました。
また、彼らは貨物自動車運送事業の許可を得ておらず、独立した事業者として運送事業を行える立場にもなかったことなどから、独立事業ではなく給与であると判断されました。
このように、「5つの判定基準」早見表では外注費の〇が3つも付くのに、総合的に判断して給与と見なされてしまうこともあるわけです。
3. ホステスの事例 国税不服審判所平成26年7月1日裁決
最後に判断が分かれた事例として、ホステス報酬の大半が給与認定されましたが、一部は外注費として認められた珍しい事例を紹介します。
スナック経営者はホステスと業務委託契約の形をとり、支払った報酬を外注費と処理していましたが、税務調査で給与であると指摘され、国税不服審判所に不服申し立てを行いました。しかし、審判所も大半のホステスについて「給与」に該当すると判断しました。
この事例では、店側が給与体系・勤務時間・店内規則を定め、面接時に説明のうえでホステスを採用していました。また、ホステスは店側の指揮命令下で接客業務に従事しており、店長の指示で指名客以外の接客も行っていたことから、指揮命令関係がありました。
さらに、店側が出勤日や勤務時間をタイムカードで管理し、遅刻・欠勤時の連絡義務やペナルティもあったことから、時間的・空間的拘束を受けていました。
加えて、報酬形態も日給または時間給を基本とし、同伴料や指名料が加味されるに過ぎず、ドレス代は店側が負担し、送迎代も一部店側が負担していました。
一方で、審判所は自由裁量の強いホステスAのみ例外的に外注費と認定しました。
なぜなら、ホステスAは出勤時間の取り決めがなく(出勤日は決まっていた)、自身の顧客の売上げの50%を報酬として同伴料等を加算する独自の歩合制であり、接客に際し自ら費用負担もしていたと推認されたからです。
このように同じ店のホステスでも、働き方次第で判断が分かれるということです。



