(※写真はイメージです/PIXTA)

業務に付加価値をつけることは一見難しく思えますが、実はほんの少しの意識でできることもあります。その1つが「社長の悩み・課題」に応えることです。上夷聡史氏の著書『M&A支援業務による会計事務所の成長戦略』(幻冬舎メディアコンサルティング)より高付加価値化のやり方とその事例について一部抜粋・再編集し詳しく解説します。

高付加価値業務に取り組むことは難しくない

業務の高付加価値化と聞くと、高度な知識が必要だと感じてしまい、「経営者の課題解決」にしろ「成長戦略」「事業承継・M&A」のアドバイスにしろ、MBAや中小企業診断士の資格を取っているようなコンサルタントでなければできないのではないかと敬遠しそうになります。

 

しかし決してそんなことはありません。特に「社長の課題、悩み」に応えるのに必要なのは、ほんの少し担当者の意識や仕組みを変えるだけで、まったく難しいことではないのです。

【事例】同じ規模の会社を2人の社員がそれぞれ担当。年間報酬60万円と500万円の差が生じた理由は?

私が実際にお付き合いしている会計事務所でこんな事例がありました。その事務所にはA氏、B氏という2人の職員がいて、A氏はX社、B氏はY社という会社を担当しています。

 

X社とY社は同業種で、売上規模もちょうど同じく15億円程度と顧問先としては規模のある企業でした。ところが、A氏担当のX社からは年間500万円くらいの報酬をもらっているのに対して、B氏担当のY社からは年間60万円の税務顧問報酬しかもらっていませんでした。

 

なにが違うのかというと、A氏は社長の悩み、課題を聞いてそれに応えていたのです。

 

あるときX社の社長が後継者育成についてA氏に相談したことがありました。社長が目をかけてゆくゆくは後継者にしたいと考えている社員が3人いるものの、社長から見て3人ともうまく育っていない、社長の伝えたい話を理解できていないようだという内容です。社長のほうも短気で、つい端折って話してしまうせいもあるかもしれないとのことでした。

 

そこで、A氏は両者の間に自分が入って橋渡しをする役を担うことを提案しました。社長の話をうまく伝えると同時に、彼らから社長に伝えたいと思っていることも吸い上げて社長に伝えることにすれば、後継者候補の社員たちにとっても意見を言いやすいはずだともちかけたのです。

 

そしてA氏は毎月1回の経営会議に参加するようになり、それ以外にも日々のやり取りの仲介役になって、月20万円ほどの報酬を得られるようになりました。社長からすれば、その役割のために社員を1人増やすと思えば安いものだということで納得しました。

 

そうして社内の事情に深く食い込むようになると、今度はまた別の課題が見えてきます。すると、今度はA氏のほうから社長にもちかけ、事務所でそういった問題の解決を得意にしている者がいるから連れてきますよと言って、請け負う仕事を広げることができます。

 

プロジェクトチームをつくらせたり、総務関係の別の業務を請け負ったりしていくうちに、全部合わせて年間500万円くらいの報酬を得られるようになっていたのです。大きな高付加価値業務です。

 

一方、B氏も最初は関与先の社長が出てきて応対しており、同じようにちょっとした困りごとや悩みごとを聞いてはいたのですが、B氏は日々の作業に忙殺されていたこともあり、自分の業務範囲外の話には相づちを打つだけの対応でした。

 

そのうち訪問しても社長は出てこず、経理担当者と会計データをやり取りするだけになり、当然、報酬は当初からの月5万円の税務顧問料だけで何年経っても変わらなかったのです。

 

A氏から話を聞いた私は、その会計事務所での会議に参加した際、A氏のアプローチや彼のX社での働き方についてほかの職員がどれくらい知っているのか尋ねてみたのですが、B氏をはじめ、所長以外の職員はほとんど誰も知りませんでした。所内で横の情報共有はなされておらず、その仕組みがなかったのです。

 

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※本連載は、上夷聡史氏の著書『M&A支援業務による会計事務所の成長戦略』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部抜粋・再編集したものです。

M&A支援業務による会計事務所の成長戦略

M&A支援業務による会計事務所の成長戦略

上夷 聡史

幻冬舎メディアコンサルティング

本書では、会計事務所がこれから描くべき成長戦略を示し、そのなかでM&A支援業務の有効性や取り組み方について事例を交えながら解説します。悩める会計事務所にとって、成長戦略を描くための羅針盤となる一冊です。

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