事業承継が行われたとしても、関与先が消えるリスクがある
中小企業の趨勢(すうせい)から、会計事務所がなにも対策をしなければ中小企業の事業承継はできずに休廃業となり、関与先が少しずつ自然消滅していくことが予想されます。
では、事業承継が行われた場合はどうなるのかというと、親族内承継・社内承継の場合と、第三者承継の場合とにわけて考えられます。小~中規模の会計事務所では、所長の年齢と関与先企業の社長の年齢がだいたい同じということがよく見られます。
これは、所長が事務所を立ち上げるのと同じくらいの時期に起業した社長を関与先にして、それ以来ずっと税務顧問としてお付き合いしているというケースが多いためです。この場合、社長からすると、所長とお互いに若いときからの長い付き合いがあるため、普通は簡単には会計事務所のリプレース(契約解消)はしないものです。
しかし、代替わりが生じた場合はそうはいきません。たとえば30代、40代の若い後継社長が就任したとき、やる気がある社長であればあるほど、さまざまな面で先代のやり方を変えて刷新を図り、自分なりの経営を目指そうとします。税務顧問についても当然その刷新の俎上(そじょう)に載せられることになります。
もちろんそのことがすなわちリプレースを意味するわけではありません。しかし、単に長年の付き合いがあるということだけでは、これまでの事務所に引き続き顧問を依頼する理由にはならないということです。
感情的なつながりがほとんどなくなった状態では、より付加価値の高いサービスを提供してくれる会計事務所や、後継社長ならではの経営刷新をサポートしてくれる会計事務所がほかにあれば、躊躇なく置き換えられることになります。
この事情は社内承継の場合でも同様です。社内から抜擢された新社長が、過去のしがらみにとらわれず効率的経営を目指そうとする場合、バックオフィスのコストは真っ先に見直される部分になります。会計事務所との顧問契約も例外ではありません。
また、第三者承継の場合でM&Aによりほかの企業に経営統合がされた場合は、合併などの組織統合がなされず法人組織は別個に残るケースであっても、譲受け企業(親会社)の税務顧問が譲渡企業(子会社)の税務も見るようになることがあります。同一グループとして連結決算を組む必要があれば、わざわざ別々の顧問に決算を依頼しているのは不合理だからです。
親族内承継、社内承継、第三者承継のいずれにしても、関与先企業の事業承継は、これまでの関係が見直されるリスクが高まるタイミングでもあるのです。
「中小企業の2025年問題」は、経済社会全体への影響というマクロ面で見れば、親族内承継、社内承継、あるいは第三者承継のいずれかにより後継者が見つかって事業承継が実現すれば、乗り切れる可能性のある問題です。
しかし、会計事務所への影響に限ってみれば、企業が廃業した場合はもちろんのこと、たとえ事業承継が行われて企業は残ったとしても代替わりを機に顧問契約が切られるリスクが高まり、関与先消滅につながる懸念が残るものです。だからこそ、この2025年問題にしっかり取り組む必要があるのです。

