経済成長の潜在性とFTA戦略
フィリピン経済は、今後25年間で2兆ドル規模に成長する潜在力を持つと見られています。現在の経済規模は3,920億ドル。平均年齢27歳と若く、さらにデジタル技術に強く英語を話せる労働力が、今後の経済成長の重要な要素となると期待されています。
国民一人当たりの国民総所得(GNI)は現在4,320ドルで、上位中所得国の基準に近づいています。2050年には人口が1億3,600万人、中央年齢が37歳、GNIは1万8,336ドルに達すると予測されています。
現在、フィリピンは世界銀行の分類で下位中所得国に位置しており、そのGNIの範囲は1,146〜4,515ドルです。上位中所得国は、GNIが4,516〜14,005ドルの範囲とされています。
フィリピン政府は、経済成長をさらに加速させるため、自由貿易協定(FTA)の締結を積極的に推進しています。特にアメリカとのFTA交渉を早期に進めるべきであり、同時に他の国々との二国間および多国間のFTAも戦略的に進めることが重要です。シンガポールのように広範なFTAネットワークを構築することが理想とされており、交渉は部分的なものではなく、全体的な貿易政策の効果を見据えて行うべきだと考えられています。
アジア開発銀行(ADB)は、フィリピンがエネルギーや農業といった重要な分野への投資を増やすことで、貿易能力が向上し、変化する国際貿易の恩恵を受けられると指摘しています。
ADBは、フィリピンには地域および世界市場の両方で大きな潜在力があり、貿易を拡大するためには国内の基盤整備が不可欠だと強調しています。
現在、フィリピンは米国の報復関税による影響が比較的少なく、17%の関税率は地域内でシンガポールの10%に次いで2番目に低い水準です。これらの関税措置は一時的に停止されていますが、10%の基準税率は依然として適用されています。
ADBは、フィリピン政府が競争力強化の必要性を認識しており、ADBとしても主要な競争力の課題に取り組むことを重視しています。特に外国直接投資(FDI)を呼び込むためには、魅力的な市場環境を整備する必要があり、そのためには質の高い交通インフラや、特にエネルギー分野における規制環境の改善が重要。持続可能で安価なエネルギー供給体制の確立は、成長を続ける経済にとって喫緊の課題です。農業分野においても、輸送インフラへの投資を強化することで、生産者がより効率的に市場へ産品を届け、輸出拡大につながるとされています。国内産業の競争力を高めるためには、基本的なインフラ整備が不可欠です。
さらに、ADBは東南アジア諸国連合(ASEAN)に対し、現在の関税政策の影響に対応するため、域内の協力体制を強化するよう提言しました。多くのASEAN加盟国が米国との二国間交渉を進めていますが、ADBはこの機会を利用して、域内の統合をさらに進めるべきだとし、域内貿易の促進と統合された地域経済を支える物理的インフラの整備が必要としています。
具体的な取り組みとしては、ASEANパワーグリッド(域内送電網)のようなエネルギー分野での協力体制構築が挙げられました。また、人材の流動性向上や入域障壁の緩和も、域内経済の強化につながるとされており、ADBはこうした取り組みへの支援に積極的な姿勢を示しています。加えて、ASEAN諸国が地域内だけでなく、他の地域や大規模経済圏との関係強化にも目を向けるべきであるとし、正式な自由貿易協定(FTA)を通じた貿易拡大も有効な手段だと述べています。