株式市場の展望…世界的な混乱のなかでのフィリピンの優位性
JPモルガン・チェースは、米国のトランプ大統領による関税措置に端を発する世界的な経済の不確実性のなかで、フィリピン株式市場を「相対的な勝者」と評価し、投資判断を「中立」から「オーバーウェイト(強気)」へと引き上げました。
JPモルガンのストラテジストは、フィリピン経済が東南アジア諸国の中でも特に内需主導型である点を強調し、これが世界的な景気減速に対する抵抗力を高め、企業収益の安定に寄与すると分析しています。 フィリピン証券取引所指数(PSEi)の2025年末目標については、JPモルガンは従来の7,000ポイントから6,700ポイントへと下方修正しましたが、これは現在の水準から約8%の上昇余地を示唆しています。
PSEiは年初来で約5.5%の下落を記録していますが、これはタイ、インドネシア、マレーシアといった他の東南アジア主要市場の指数と比較して相対的に良好なパフォーマンスです。ただし、シンガポールやベトナムの市場には劣後しています。 世界経済の減速懸念が強まるなか、内需主導型で外部依存度の低いフィリピン経済は、投資家にとってリスク回避の選択肢として魅力を増しています。また、企業業績の安定性が高いことも、市場の底堅さへの期待を高める要因となっています。
不動産市場の動向…貿易摩擦がもたらす影響と機会
トランプ大統領の関税政策は、世界市場に広範な影響を与え、フィリピンの不動産市場にも変化の兆しをもたらしています。特に産業用およびオフィス不動産セクターでは、その影響が顕著に現れ始めています。
フィリピン政府は、この貿易摩擦を「チャイナ・プラス・ワン」戦略の推進に利用し、製造業への外国直接投資(FDI)を積極的に誘致しています。その結果、2024年にはFDIの95%が製造業に集中し、2021年から2024年までの年平均成長率は38.63%を記録しました。
しかしながら、フィリピンは依然として高い電力コスト、複雑な規制、政策の不安定性といった構造的な課題に直面しています。 電力料金はASEAN地域で3番目に高く、規制の簡素化や腐敗認識の国際ランキングでも低い評価にとどまっています。これらの要因が、潜在的な投資機会の完全な実現を妨げています。
また、フィリピンの輸出の16.8%が米国向けであるため、貿易摩擦の影響を受けやすい状況にあります。ただし、日本、香港、中国向け輸出もそれぞれ10%以上を占めており、輸出先の多角化によるリスク分散が可能です。
建設資材市場では、フィリピン国内の鉄鋼生産量が需要を大幅に下回っており、年間720万トンの鉄鋼を主に中国から輸入しています。米国市場向けの中国製鉄鋼の輸出減少は、アジア市場への過剰供給を引き起こし、フィリピンにとっては建設コストの低下という恩恵をもたらす可能性があります。特にインフラ開発や工業団地建設において、このコスト低下はプロジェクトの推進を後押しするでしょう。
オフィス不動産市場では、ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)産業が米国市場への依存度の高さから、間接的な影響を受けています。2024年にはフィリピンGDPの9%、オフィス需要の19%を占めたこの産業も、2025年の成長率は7%未満と予測されています。
しかし、フィリピンはAIスキルの普及率が高く、今後は医療、金融、データ分析分野への業務の高度化を通じて、BPO産業の競争力を維持できると期待されています。 短期的には、製造業向けの電力コスト支援策がフィリピンの競争力を強化する鍵となるでしょう。ベトナムやドイツのように、産業向け電力補助金政策を導入することで、より多くの外資系製造業を誘致できる可能性があります。