部局の運営経費は30年で3,000万円減
人を育てて雇うためには組織を支える必要があり、組織を維持するためには資金が必要である。とはいえ、現在の日本の大学を巡る状況は決して楽観できるものではない。
「大学については、10年後がすでに想像できない。5年後も難しい」。
とある国立大学教員がSNSに残した呟きである。1990年代末、まだ若手教員であった筆者の目に輝いて見えた国立大学の姿は、今や大きく様変わりしたものとなっている。
それでは大学を巡る経済状況は、どのくらい変化しているのだろうか。たとえば、筆者が現在所属している大学院の予算は年1億円弱であるが、その規模はこの30年で1,500万円ほど減少している。ちなみにその間に所属する大学院生の数はほとんど変わっていないから、学生一人当たりの予算もそれだけ減少していることになる。加えて近年この部局の予算は、約20%が科学研究費補助金の「間接経費」や各種のプロジェクト経費によって占められている。そのうちプロジェクトに関わる経費は、プロジェクト以外には使えない。この経費が予算全体のなかにおよそ1,500万円存在する(ちなみにこの割合は、この文章を書いた後、さらに増した。新しい外部資金が取れたからである)。
このことは、部局本来の運営に使える経費がこの30年間に合計3,000万円近くも減少していることを意味している。ちなみにこの部局ではこの限られた予算内で、非常勤職員や非常勤講師の人件費、電気代や水道代を払い、事務作業等に必要なパソコン等の備品を買い(なお、教員のパソコン等は科研費などからも支出できるので別枠である)、老朽化が進むネットワークや建物の補修費、さらには図書やデータベースを購入する経費を払っている。30年近くの間には、電気代や図書館の電子データベース契約料のように、価格が大きく高騰しているものもあるので、部局のやりくりはますます大変になっている。
結果、筆者の所属する大学では、学生がコンピューターを使って作業する「情報処理室」を「ノートパソコンの所有率が上がったから」という名目で廃止したり、廊下の照明灯を2本に1本は抜いて電気代を節約したりする、涙ぐましい努力をして予算を削減している。夏には電気使用量が一定の範囲を超えると大学全体の電気代単価が上がる契約になっていた時期もあり、「このまま行くと契約電気使用量を超えるので、エアコンのスイッチを切れ」という趣旨のメールが回ってきたこともある。