大規模修繕工事に耐震改修も含めるように方向転換
事例2 一度中止した耐震診断を東日本大震災の影響で実施に転換
事例2は、1977(昭和52)年に竣工した鉄骨鉄筋コンクリート造(一部鉄筋コンクリート造)9階建て、76戸と管理人室1戸のマンションである。片廊下形式の北棟と南棟をエキスパンション・ジョイントでつないだL字型の建物である。
南棟は1階部分がエントランスホールと住戸になっており、北棟は1階が、住戸のほかに管理人室と駐車場が配置されている。
このマンションはこれまで2回の大規模修繕工事を行ってきており、3回目を計画していた。2011年5月に建物調査を行い、2012年9月に工事を開始する予定でいたが、東日本大震災があって、その影響で大規模修繕工事に耐震改修を含めるように変わったものである(写真1)。
【写真1】マンション全景(事例2)
1.管理組合の取組み経過
このマンションは建設当時から住民自治会による自主管理でスタートしていた。建物の維持管理には力を入れてきた経過がある。1986年に維持管理に関する長期的計画を立案し、1998年まで12年間に及ぶ資金計画の検討を行ってきていた。1991年には自治会を管理組合に改め、規約改正委員会の設置などを行ってきている。
耐震診断については、2006年に住民アンケートを行った結果、反対が多数を占め、中止になっていた。しかし、2011年3月の東日本大震災の影響で住民の意識に変化が生まれ、2012年に大規模改修工事を取り組む際に少しでも補強が可能なら考えてみてはどうかとなり、改めて“建物のすべての建物診断・改修を行わず、危険箇所のみ行う”という案でアンケートを行った結果、多数の賛成を得て診断と改修を実施することとなった。
このアンケート結果を受け南棟と北棟を同じ性能程度までの強度とし、建物が地震を受けた時に、片側のみに被害が集中しないようピロティとなっている駐車場部分について検討を行い耐震補強も併せて行うこととし、総会の承認が得られた(図1)。
【図1】耐震診断および補強対象部
建物のバランスが悪い箇所を耐震壁で補強
2.耐震診断から耐震補強へ
(1)耐震診断
目的に合わせて調査作業は現地の目視調査、不同沈下の測定、コンクリート強度測定を行い、これらの結果に基づいて耐震診断と耐震補強計画を進めた。2次診断はⅩ方向の1階部分のみ行い、Y方向および上階は参考値として判定の対象外とした。
耐震診断の結果は、「地震の震動および衝撃に対して倒壊しまたは崩壊する危険性がある」との判断であった。具体的には、対象建物(北棟)の1階部分は片側に管理人室があり他の部分は独立柱でバランスが悪く、地震の際に建物が回転して倒壊する危険が考えられる。管理人室側の反対側に壁を新設してバランスをよくする必要があった。
耐震改修設計の結果、最も耐震性の低い北棟スパン方向の耐震性能は目標値を満足することができ、北棟と南棟はほぼ同じ性能になった。しかし、今後はけた行方向および塔屋の耐震性能も検討が必要である。
(2)耐震設計
北棟1階の補強として、スパン方向に壁を新設するのだが、1階は駐車場に使用しているため駐車スペースの確保、駐車方法や自転車置場の変更等の検討が必要となった。
本来、耐震補強を行う壁は一番北の部分を選ぶのがよいのだが、駐車スペースが減ってしまうので、北から2本目の柱の部分を選んだ(図2)。こちらも駐車方向を変更する必要があるが、それほど問題となることはなかった。しかし、全面壁になって自転車の出入りが見えにくくなるので、カーブミラーを増設した。
【図2】1階平面
(3)耐震補強の流れ
①躯体のはつり出し
耐震壁を増設するために、駐車場の土間コンクリートを撤去し、地中梁を露出させた。また、柱・梁についても仕上げ材の撤去とコンクリート面の目荒しを行った。
②ケミカルアンカー打ち
柱・梁にアンカーボルトを取り付けるために、既存鉄筋位置の探査と無振動による穴開けを行いケミカルアンカー打ちの後、壁の配筋を行った(写真2)。
【写真2】駐車場耐震壁設置のためのケミカルアンカー打ち
③コンクリート打設
型枠の建込を行った後、上部までコンクリートの打設を行う。後日、梁と壁との隙間が出ないように無収縮モルタルの打設を行った(写真3、写真4)。
【写真3】同上コンクリート打設
【写真4】同上耐震壁設置完了
部分的な補強で被害を少しでも少なくする
3.今後の課題
今回の耐震補強工事は、大規模改修工事の計画の中で急遽行ったため、1階のピロティのみの補強にとどまっている。補強費用については、壁を1面増設する工事であったので、比較的安価となった。最も耐震性能の低い箇所は改善されたが、今後全体の耐震診断を行い、計画的な補強を進めて行くことが求められており、管理組合は対策を考えている。
<おわりに>
以上に紹介したのはいずれも耐震診断の結果を受けて補強工事を行ったものだが、2つの事例とも建物全体について行ったものではなく、部分的な補強である。
現在、分譲マンションの管理組合では地震への対応で頭を悩ませているところが多いであろう。特に旧耐震基準時に建設されたマンションでは耐震診断を受けるかどうかで管理組合内で議論があることと思われる。そのようなマンションにとって100点満点の耐震改修ではなくとも、できるところで補強を行い、被害を少しでも少なくしようというこの事例のような取組みは参考になるであろう。
耐震診断には自治体などの補助を活用して実施し、地震に対して一番弱いところなどから予算を考えながら補強箇所を選び、地震への備えを行っていくという“できるところからの耐震改修”という方法はここで紹介したマンション以外でも実施されてきており、住民の理解を得やすいのではなかろうかと感じている。