雇うなら知っておきたいミャンマー人の「健康・お金」への意識

今回は、雇用主が知っておくべきミャンマー人の「健康・お金」への意識を見ていきます。本連載では、日本ミャンマー支援機構で約300社の海外進出のサポートを行ってきた日本人アドバイザー・深山沙衣子氏の著書、『ミャンマーに学ぶ海外ビジネス40のルール』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋し、ミャンマー人の国民性や彼らのビジネス慣習などを紹介します。

万国共通ではない、日本人の「衛生観念」

私たち日本人は、衛生面については世界トップレベルの自意識を持っています。日本では幼い頃から毎日の入浴を習慣とし、医療技術の発達のおかげで予防接種の補助制度もある程度充実しています。行政が乳幼児の医療費を負担していることもあり、子どもの体調不良を感じたら病院に連れて行くことに何の抵抗も感じないでしょう。保育園や学校では、登園・登校の停止を推奨する「感染症」がいくつも指定されています。毎年流行期になると、厚生労働省などによって予防法が通達されます。強い感染力を有する病気が蔓延したらたまったものじゃありません。

 

万一感染した場合は、一定期間自宅療養をすることを当然のこととして受け入れます。何より、自身の体調が悪ければ、「休もう」と思うのが一般的でしょう。無理に出社して作業効率が悪くなれば、サボっているような評価をされるかもしれない。ならば、素直に「具合が悪いから休みます」と言ってしまうほうがよいと、大方の人が休むほうを選択します。

 

実際問題、インフルエンザの診断がくだっているならば、ほかの人への感染が心配されます。お願いだから帰ってくれと思うのは冷たいかもしれませんが、それが多くの日本人の感覚ではないでしょうか。

 

しかし、ミャンマー人と仕事をするなら、この感覚が万国共通だと思わないほうがいいでしょう。実際に感覚の違いから発生したトラブルを、ご紹介しましょう。

 

ミャンマー人の就職希望者トゥンを、とある70代の日本人企業経営者に引き合わせたときのことです。トゥンは、ボランティアの日本語教育プログラムを受講していて、ある程度のレベルの日本語を習得していました。JLPTという外国人向け日本語能力試験では、5段階のうちN3の判定を得ています。

 

JLPTの判定目安は次のとおりです。

 

N1:幅広い場面で使われる日本語を理解することができる。

(例:新聞の論説など論理的文章を読んで理解できる)

N2:日常的な場面で使われる日本語の理解に加え、より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解することができる。

(例:新聞や雑誌の記事.解説、平易な評論文章を読んで理解できる)

N3:日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる。

(例:新聞の見出しなどから情報の概要をつかむことができる)

N4:基本的な日本語を理解することができる。

(例:基本的な漢字を使って書かれた身近な話題の文章を、読んで理解することができる)

N5:基本的な日本語をある程度理解することができる。

(例:ひらがなやカタカナ、簡単な漢字で書かれた文章を読んで理解することができる)

 

トゥンは就職前から日本人とのコミュニケーションで困ることは、そうそうありませんでした。就職後は若さとやる気を生かし、日本語もみるみる上達させ、仕事ぶりも真面目そのもの。雇い主である経営者は、トゥンを高く評価します。トゥンも、経営者をミャンマー語で年配男性を意味する「ワジ」と呼び、親しみを感じていました。

 

そんなある日、トゥンは昼食後に激しい腹痛と嘔吐に見舞われます。ワジも仲間の従業員も、季節的に流行していた「ノロウイルス」を疑い、病院に行くように促しましたが、トゥンは頑なに受診を拒否しました。

 

ワジはトゥンの症状が治まった後も、「もしもノロウイルスに感染しているのなら、ほかの従業員に感染が拡がるのを防ぎたい。診断書を出してもらい、継続治療が必要ならばするべきだ」と主張するものの、トゥンは一向に首を縦に振りません。さすがに業を煮やしたワジは、私に「何とか病院に行くよう説得してくれ」と助けを求めてきました。ワジが言うことはもっともで、私はトゥンと同じミャンマー出身の知人に、横浜にある外国人診療に熱心な病院に連れて行くよう依頼しました。

 

最後まで渋り続けるトゥンを、何とか諌いさめて受診させた結果、ノロウイルスではないことが判明して一件落着しましたが、問題の本質はトゥンのガンコさにあったわけではありません。

 

医師に病状を説明することくらい容易なはずのトゥンが、なぜ頑なに受診を拒んだのか。その理由を、私たちはミャンマー人とビジネスをするうえで理解しておくべきです。

病気でも休まないのは「家族のために稼ぎたい」から

トゥンが受診を拒んだ理由は、ずばり「お金」です。トゥンは日本で生活する最低限のお金以外を、母国ミャンマーに住む家族に毎月仕送りしています。いくら医療費が補助されているとはいえ、「症状が治まった」のに医療費をかける日本人の感覚が、トゥンにはわからなかったのです。

 

実際にミャンマーの人々の生活をみれば、トゥンの主張はよく理解できます。ミャンマーでは重症だと認識しない限り、自宅で治そうとする風潮があるのです。その間、周囲の人がきちんと看病をします。

 

世界中の国や人が、医療に恵まれているわけでも、経済的にゆとりがあるわけでもありません。はるばる海を渡り稼ぎに来ているミャンマー人の中には、「家族」のために稼ぎたいという強い気持ちを持った人が大勢います。ちょっとした体調不良で休んでいる暇はないのです。その気持ちは痛いほどよくわかります。

 

同時に、受診を強く勧めたワジの考えもよくわかります。従業員の健康を守るために、強く言うほかなかったのでしょう。このトラブルのどこにも、悪意は存在しません。ただ、日本人とミャンマー人の、病気に対する感覚が絶対的に違ったのです。トゥンには、日本での病気に対する考え方を教えました。

 

このような、ちょっとしたすれ違いなどが原因で、容易に外国人労働者を解雇する企業もあります。しかし、お互いが生まれ育ってきた背景を知れば、双方の主張をすり合わせて、うまく共存できるのではないでしょうか。

日本ミャンマー支援機構 日本人アドバイザー

1979年東京都生まれ、神奈川県で育つ。
立教大学文学部心理学科卒業。
大学卒業後、マレーシアの国営企業日本支社で勤務。その後広告代理店、出版社勤務を経て、フリーライターになる。
2011年、ミャンマー人の難民として日本に来た男性(当時40歳)と結婚。
2012年4月にミャンマー支援機構を起業。ミャンマー人の日本におけるトータルサポート(就職・留学・法的手続き・書類作成・仕事紹介・住居紹介・観光案内)、日本企業や日本の行政機関のミャンマー進出及びサービス提供を行う。
現在までに、日本・ミャンマー・韓国・シンガポール企業などのサポートにおいて、300社の実績がある。

著者紹介

連載ミャンマー人と「ビジネス」をするための基礎知識

本連載は、2016年4月30日刊行の書籍『ミャンマーに学ぶ海外ビジネス40のルール』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

 

ミャンマーに学ぶ海外ビジネス 40のルール

ミャンマーに学ぶ海外ビジネス 40のルール

深山 沙衣子

合同フォレスト

双方の歩み寄りが未来を開く! 異文化地域とのビジネスは言葉以上のカルチャーショックだらけ。 この一冊に相互理解のヒント満載。 ミャンマーを中心に約300社の海外進出のサポートを行ってきた著者が明かす、円満海外ビジネス…

 

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