即断即決しない日本人は「やる気」を疑われている!?
日本で仕事をしているほとんどの人が、「見積もり依頼」が来た時点では受注決定と思いません。見積もりを提出する側も、「あいみつ」(相見積もり)でほかにも見積りを持ちかけていることは常識といっていいでしょう。見積もりが認められてから、正式依頼がきます。
ところが、ミャンマー人とビジネスをする際は、「見積もり=正式依頼」である、と相手は認識していることを理解しておかなければなりません。ミャンマーでは、「見積もりを出すときは正式な依頼がきたとき」という文化があるのですから、勘違いするほうが悪いのではなく、ミャンマー流のビジネスをベースに考えないほうに落ち度があることになります。
近年、ミャンマー人も日本人は正式な依頼ではないのに見積もりを求めてくる性質があると理解しはじめていて、「日本人はNATO(Not Action Talk Only)、つまり話だけで行動しない」と言われたり、「見積もりクン」とあだ名をつけたりしています。ですから、日本人から見積もり依頼があると、正式発注ではないため、「やる気はない」と思われています。
見積もりを出しても取引につながらないのであれば、即決断してくれる中国企業や韓国企業のほうがやる気があると判断されることもあります。
何度も見積もり依頼をしているのに、仕事の依頼をしない日本企業に対し、ミャンマー人が見積もりの提示を拒否したことがありました。そのときの言い分も「仕事をしない見積もりクンに、見積もりを出すだけエネルギーの無駄」との抗議まがいのものでした。
どうしても見積もりが必要なら、口頭ベースで聞く
見積もりだけで受注の感覚を持っているミャンマー人たちですから、日本でよく行われている「相見積もり」などもってのほかです。他社との比較が前提ですから、ますますミャンマー人からはやる気がないと思われ、彼らのやる気も削ぎます。
どうしても相見積もりが必要なときは、書面で求めたりせずに口頭ベースにとどめましょう。その際、金額を提示してくれるだけでも感謝するべきです。教えてもらった後、仕事を依頼しない場合は、相手の感情を傷つけない断りの理由も必要です。
「どうしてもあなたの会社と仕事をすることができなくなった。しかし、見積もりを出してくれて感謝しています」と丁寧に伝えると、以後の関係も壊さずにいられるでしょう。
私の場合、見積もりを出してもらった人に対しては、直接お礼に伺ったり、食事に招待しています。毎回仕事を依頼するとは限らないけれど、良好な関係を続けたい業者の中には、気前よく見積もりを出してくれるところもあります。そのかわり、私からホテルの食事をおごったり、担当者の医療費を一部援助したりするなど、相手に見積もりを出すメリットを提供し、正当な金額での見積もりを得ています。
そこまでしないと見積もりをもらえないのかと思うかもしれませんが、たかが見積もりと軽くみてはいけません。ミャンマー人は人との関わりを大切にしますから、感謝の気持ちを示し続けることで、ミャンマー社会の中で信頼を高めていくことにつながります。
こうして築いていく人間関係のなかで、いつかビジネスで助けてくれる人が現れるかもしれません。ミャンマー人が特に大切にする人間関係こそ、海外ビジネスを展開するための最大の情報源で、財産になります。日本のビジネスルールが他国でそのまま通用するとは限らないケースは、ほかにもたくさんあります。少しずつ、相手の国のビジネスルールを理解していきましょう。