(※写真はイメージです/PIXTA)

不要な土地を国が有料で引き取る新しい仕組み、「相続土地国庫帰属制度」。売買や贈与、寄付などが成立しそうにない「負動産」の処分では、最終手段として、相続土地国庫帰属制度や民間の不動産引取サービスの利用を検討することになります。民間引取サービスの場合、取扱業者によって料金形態はさまざまですが、相続土地国庫帰属制度の利用料は政令で定められています。ただ、政令で定められている以外にも、実際は「申請・承認要件を満たすための費用」が発生するため、総費用の目安がわかりにくいと言われています。本稿では、本制度の利用にかかる「お金」について詳しく見ていきましょう。本制度の申請サポートを行っている平田康人氏(行政書士/宅地建物取引士)が実情を踏まえて、解説します。

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遠方にある「父の実家・農地」を相続したくない

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【相談内容】

私の父(85歳)が所有する地方の実家と農地についての相談です。ある地方都市の空港から車で1時間弱のところに父の実家と農地があります。これらは、約40年前に祖父から父が相続したもので、一時実家は知り合いに貸していましたが、現在は空き家です。

 

農地は、祖父らが家庭菜園として使っていた程度で、父が相続してからは他人に貸しているわけでもなく、雑草が生い茂った状態になっています。管理に負担を感じていた父は、以前実家や農地の隣地所有者に対して、無償譲渡の話を持ち掛けたこともありましたが断られていました。

 

私自身も、現在の居住地から遠く離れた父の実家や農地を相続したくはありません。売却や贈与が難しい場合は、相続土地国庫帰属制度の利用も検討していますが、実際に承認されるまでには、「何に、どのくらいの」費用が掛かるのでしょうか?(54歳・男性)

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⇒回答:審査手数料、帰属承認された場合の負担金、申請・承認要件を満たすための費用、専門家に依頼する場合は専門家報酬などです。

解説:相続土地国庫帰属制度の利用料は政令で定められている

法務省が公表している「相続土地国庫帰属制度のご案内(第2版)※1」によると、本制度の利用に要する費用は次の2つです。

 

※1 法務省ホームページ 相続土地国庫帰属制度のご案内(第2版)

https://www.moj.go.jp/content/001390195.pdf

 

第一は、「審査手数料」。金額は、土地一筆当たり1万4,000円です。支払い方法は、審査手数料の額に相当する額の収入印紙を申請書に貼付して納付します。審査手数料は、本制度による審査を申し込むための手数料なので、性質上、申請後に却下や不承認、申請者の意思で取り下げた場合でも返還されません。また、申請先の法務局から申請者に対する確認などで、申請書に記載された連絡先に電話や郵便等で連絡をすることがありますが、長期の入院や旅行などで連絡が付かないときは審査が打ち切りになりますが、その場合でも審査手数料の返還はありません。

 

第二は、「負担金」です。負担金とは、帰属申請が承認された場合にのみ国に支払う、申請土地の標準的な10年分の土地管理費用です。負担金の納付方法は、承認通知に同封された納付書により支払います。ただし、負担金の通知が到達した日の翌日から起算して30日以内が納付期限となるため、負担金を納付せずに納付期限を経過した場合、承認は取り消されることになるため注意が必要です。

 

負担金の金額は、申請土地の区分によって決定します。土地区分は、「宅地、農地、森林、その他(雑種地、原野など)」の4種類ですが、この区分は単に地目ではなく、最終的に国側が書面審査や実地調査、関係機関からの資料収集などを行い、客観的事実に基づいて判断するとされています。また、負担金の算出方法は、土地区分や申請地の面積、一定の例外に該当するか否かによって、次のように分けられています。

 

【負担金の算出方法】

1.申請地が「宅地」の場合

 

<原則>20万円(面積にかかわらない)

<例外>宅地のうち、都市計画法の市街化区域又は用途地域が指定されている地域内の土地は、面積区分に応じた算定となります※2

 

※2 法務省ホームページ 相続土地国庫帰属制度の負担金

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00471.html

 

2.申請土地が「農用地」の場合

 

<原則>20万円(面積にかかわらない)

 

<例外>主に農用地として利用されている土地のうち、次の3つの農地は、面積区分に応じた算定となります※2

 

(1)都市計画法の市街化区域又は用途地域が指定されている地域内の農地

(2)農業振興地域の整備に関する法律の農用地区域内の農地

(3)土地改良事業等の施行区域内の農地

 

3.申請土地が「森林」の場合

 

⇒面積区分に応じた算定となります※2

 

4.申請土地が「その他(雑種地、原野等)」の場合

 

⇒20万円(面積にかかわらない)

 

内容として、「その他(雑種地、原野など)」は一律20万円ですが、「宅地」と「農地」はそれぞれ例外(市街化区域又は用途地域の指定区域内、農用地区域内、土地改良事業等区域内の場合など)を除いて原則20万円、森林は面積区分に応じて算出します※2。森林は負担金の算出単価が低いため、仮に地積が3,000m2であっても約30万円ですが、宅地や農地が「例外に該当」すると、負担金の金額はハネ上がります。

 

たとえば、宅地400m2の場合は約125万円、農用地1,000m2の場合は約113万円になります。

承認申請をするために必要な費用

法務省が公表している相続土地国庫帰属制度の利用に掛かる費用は以上のとおりですが、これ以外にも承認申請をするために必要な費用が2つあります。

 

1つ目は、「申請・承認要件を満たすための費用」です。主なものとして、建物等がある場合は地上有体物の解体撤去費用、担保権の設定がされている場合は清算及び登記抹消費用、その他、境界確定は必須ではありませんが、隣地からの異議に備えて境界確定を希望する場合はその費用、土地改良区賦課金の清算費用、越境や被越境樹木の伐採費用、竹の伐根費用などがあります。

 

解体撤去費用は、建物等の構造や規模、周辺状況で異なりますが、一般的には建物の延べ床面積の1坪あたり、木造:5~6万円/坪、鉄骨造:7~8万円/坪、鉄筋コンクリート造:9~10万円/坪が目安になります。

 

さらに、前面道路が狭かったり、隣地建物と近接していたり、アスベスト(石綿)など有害物質が含まれている場合は、通常解体費の約1.3~1.5倍程度に増額します。解体費用は、人件費や廃材処分費の高騰で近年上昇傾向にあります。

 

また、境界確定費用は土地面積や隣地状況により約50万円~。森林などの樹木の伐採は通常伐採なら約50万円から、高所伐採やクレーンで吊るして伐採する特殊伐採、竹の伐根などは100万円を超えることもあります。

 

2つ目は、「申請書類の作成に伴う実費」です。たとえば地方の土地の場合、現地や地元役所へ不動産調査や資料収集に向かうための往復交通費、資料取得費、滞在費などです。

 

これらを自ら行う場合、1度で終わらなかったり、調査漏れがあると何度も足を運ぶことになったり、費用以外にも手間や時間といった労力も負担となります。また、対象が森林や農地の場合、それなりの装備(虫・蛇・熊などの対策)や備品(境界を記すロープ、ロープ止め金具、コロコロメジャーなど)が必要なこともあります。

承認申請以外は、専門家に代行依頼できる

承認申請は、申請者本人または法定代理人に限られますが、申請書類や添付資料作成、現地調査や法務局への事前相談などは、弁護士・司法書士・行政書士に限り、本人を代行することが認められています。

 

専門家に依頼した場合の報酬は、依頼先により異なりますが、一般的に承認申請一式作成費用20万円(実費別途)~としている専門家が多いようです。ただし、専門家を選ぶ際は、不動産の現地調査に慣れている専門家に依頼すべきです。対象が宅地ならわかりやすいのですが、耕作放棄した農地や森林になると、現地を特定することすら困難な場合があります。対象地と思って調査したら、実は数軒隣の土地だったという笑えない事例もあります。

 

また、本申請後に法務局や関係各所の担当官による実地調査が行われるため、申請地のみならず相隣関係や現地に至る導線、通行や使用の権限を確認するなど、申請前に潰しておくべき問題点を現地状況から発見できる専門性も必要になります。

 

以上が相続土地国庫帰属制度の利用に予想される費用です。最初にある程度費用の見通しを立てたい方は、法務局への事前相談をお勧めします。法務局担当者と資料や写真を見ながら打合せすることで、申請前にやるべき内容や承認の可能性がある程度わかります。

 

たとえば、竹林が隣地から申請地に伸びて生息している場合などは、申請地内をいくら伐根しても承認されません。生命力の強い竹は何度も地中越境して生えてくるためです。「竹林が隣地と連なっていれば不承認になる」と相談時点でわかれば、「多額の費用を掛けて伐根したのに不承認」といった失敗を防げると同時に、本制度に見切りをつけて、別の方法での検討に早く切り替えることができます。

 

 

平田 康人
行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表
宅地建物取引士
国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター

 

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