Aさんが犯していた“致命的なミス”とは
それは、Aさんが「相続時精算課税制度」を過去に利用していたことを“忘れて”贈与税の申告を行っていた、ということでした。
というのも、15年前に相続時精算課税制度を教えてくれた税理士さんはすでに亡くなっており、事務所も閉めていたため、違う税理士に贈与税の申告を依頼したそうです。その際、Aさんは前に相続時精算課税制度を選択していたことをすっかり忘れていたといいます。
Aさんは制度の撤回を求めましたが、同制度は1度適用してしまうと撤回できません。
この結果、贈与を受けた長男が思わぬ税負担を課されることになってしまったのでした。
相続のほうが良かったのに…長男が税負担を負った理由
「相続時精算課税制度」は適切に利用しなければ相続税対策とはならず、かえって損をしてしまう場合があります。
同制度を使った場合、相続が発生すると、相続時精算課税を選択して以降になされた生前贈与を含めて、相続税の計算がなされます(2024年1月1日以降の改正については後述)。
15年前のAさんは、暦年贈与のようなチマチマした方法では相続税対策として効果が薄いように感じ、相続時精算課税制度に飛びつきました。しかし、当時の同制度は、相続発生までの“課税の繰り延べ”でしかありません。
また、同制度を使って自宅を両親から子に贈与した場合、相続で取得した場合と比べて「登録免許税」や「不動産取得税」といった税金が高くなります。さらに、同制度を使っている場合には相続があった際に土地の評価を最大8割減できる「小規模宅地の特例」なども使うことができません。
このように、相続時精算課税制度は1度にまとまった金額を贈与できるというメリットがある一方で、デメリットも多いといえます。
相続時精算課税制度を利用すべきタイミングとは?
同制度が活用できる場面としては、賃料収入のある不動産を贈与するケースが考えられるでしょう。
このような場合に同制度を使って贈与すると、贈与日以降の家賃収入を受贈者が取得できることから、贈与者の財産増加を防止することができます。
もっとも、こうしたケースで不動産を贈与する場合にも、先述のように「登録免許税」や「不動産取得税」といった税金がかかるため、専門家に相談しながら慎重に判断しましょう。