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想定外…相続税数千万円一括納付の悲劇
Aさんは焦りを感じ、脂汗をかきながら、相続税についてさらに詳しく尋ねました。銀行員の説明によると、相続税は相続発生後、原則10ヵ月以内に現金で納付しなければならないとのこと。
不動産を相続したからといって、そのまま保有するだけでは納税資金が生まれるわけではありません。たとえ毎月の家賃収入があったとしても、それは定期的な収入であり、一括で多額の税金を支払うには不十分です。
「……では、いくら支払わなければいけないのでしょうか?」
Aさんが慎重に問いかけると、銀行員は淡々と計算を始めます。そして、机上の書類を示しながら答えました。
「概算ですが、数千万円の相続税がかかるでしょう。詳しくは税理士とのご相談をお勧めします」
Aさんの心臓がドクンと大きく跳ねました。
「そ、そんなに?」思わず口を挟む妻。
想像していた額よりもはるかに大きな数字でした。母の資産を相続することで、住宅ローン返済の負担が軽くなるどころか、新たに数千万円の現金を用意しなければならないのです。
「そんな大金、すぐには用意できませんよ!」
銀行員は冷静に続けます「相続税の納税期限は10ヵ月後です。それまでに資金を準備していただく必要があります」。
家賃収入では間に合わない…
Aさんは慌てて計算を始めました。満室想定でのアパートの家賃収入と、そこから固定資産税・管理費・修繕費などの経費を差し引いた、手元に残る金額を計算しました。しかし、この家賃収入はもともと住宅ローンの返済に充てる予定でした。ローン返済がなくなれば、多少の余裕は生まれるものの、相続税を捻出する余裕はないことは明白です。
「じゃあ……どうすればいいんですか?」Aさんは力なく銀行員に問いかけました。
「現金で用意できる資産があれば、そこから納税するのが一般的です。もしご入用であれば、融資のご案内もさせていただきますので申し付けください」
つまり、Aさんは自分の貯蓄を取り崩して相続税を支払わなければならないのです。
「俺の貯金で、なんとかなるだろうか……?」
Aさんには、長年の会社員生活でコツコツと貯めた老後資金がありました。しかし、それは夫婦の老後を安心して過ごすためのものであり、まさか相続税で大半を持っていかれることになるとは考えてもいなかったことです。
さらに、相続税を支払ったとしても、今後もアパートの維持費や税金がかかることを考え、冷静に今後の収支を計算することが必要と感じました。
Aさんは「母の遺産であるアパートと土地を相続した」という事実を、単純に「資産が増えた」と考えていました。しかし、いまやその甘い見通しは打ち砕かれています。
