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相続で有頂天
もちろん、多少の不安はありました。アパート経営の経験はありません。しかし、母が存命のころは運営をすべて管理会社に任せていた様子だったので、「管理会社がやってくれるから大丈夫だろう」と楽観的に考えていました。
また、「相続税がかかるのでは?」という疑問が一瞬頭をよぎりました。しかしこれについても、テレビや雑誌で「不動産を相続すれば税負担が軽くなる」という話を聞いたことがあり、「賃貸物件だから、思ったより税金はかからないだろう」と、老後資金不安がなくなったことでの高ぶる気持ちから軽視してしまいます。Aさんにとって相続は「幸運な出来事」であり、「自分の人生を楽にしてくれるもの」としてしか捉えていませんでした。
「家賃収入で住宅ローンを返済し、残りは貯蓄に回せば、夫婦でゆとりある生活ができるはずだ」そう思いながら、Aさん夫妻は揃って銀行に向かいました。しかしこのあと、思いもよらぬ現実を突きつけられることになるとは、このときは知る由もなかったのです──。
相続税に落胆
銀行の窓口で、Aさんは母が持っていた口座についての手続きを進めていました。母が長年経営していた一棟アパートとその土地──その総評価額は2億円。これまでの住宅ローンの悩みが一気に解消されると考えていたAさんの表情には、どこか余裕がありました。
しかし、母が生前懇意にしていた銀行員が説明を進めるなか、突然放たれた一言にAさんの表情が凍りつきます。
「相続税の支払いはどうされますか?」
「えっ……相続税?」
Aさん夫妻は一瞬、フリーズしてしまいました。確かに相続税のことは頭の片隅にあったものの、どこか楽観視していたためです。
「母が経営していたアパートですし、家賃収入も入ります。その収入で住宅ローンを返して、あとは生活費に充てるつもりですが……」
戸惑いながらもそう伝えるAさん。しかし、銀行員の口から出た次の言葉は、夫妻の甘い見通しを完全に打ち砕くものでした。
「家賃収入では、相続税の一括納付には間に合わない可能性が高いですね。相続税は現金での納付が必要です」
