遺言でやってはいけないこと、やるべきこと
「お父さん、何を書いているの?」
サザエが顔を覗き込むと、波平は手を止めて答えました。
「遺言を作ろうと思ってな。ワシがいなくなったとき、家族がもめないように。」
フネは波平の横に座りながら、優しく声をかけました。
「お父さん、それはいい考えだわ。でも、その書き方で大丈夫かしら?」
波平は少し不思議そうな顔をして言いました。
「自筆で書けばいいんだろう? これで十分じゃないのか?」
サザエが少し眉をひそめながら答えました。
「それがね、お父さん。自筆証書遺言って、簡単そうに見えて実は問題が多いのよ。たとえば、書き方に不備があったら無効になっちゃうし、保管方法を間違えると見つけてもらえないこともあるの。」
「何だと? せっかくワシが苦労して書いたものが無効になるかもしれないというのか?」波平は驚いた表情を浮かべました。
フネが落ち着いた声で続けました。
「そうですよ、お父さん。自筆証書遺言は基本的に全部自分で書かなきゃいけないし、日付や名前を正確に書かないと認められないのですよ。それに、亡くなった後に家庭裁判所で検認という手続きも必要になるから、家族にとっても手間が増えてしまいますの。」波平は腕を組みながら考え込みました。
「それは面倒だな……では、どうすればいいというのだ?」
サザエはにっこり笑いながら応えました。
「お父さん、公正証書遺言にしたほうがいいわ。公証役場で作成するから、法律のプロが内容を確認してくれるし、不備がなくなるの。それに、原本が公証役場に保管されるから、なくす心配もないのよ。」
フネも頷きながら続けました。
「そうね。それならお父さんが亡くなった後でも、家庭裁判所の検認が必要ないから、私たち家族がすぐに手続きを進められるわ。」
波平は少し驚きながらも納得した様子で言いました。
「なるほどな……公正証書遺言というのが、確実で家族にも負担をかけない方法なのか。だが、手間も費用もかかるのではないのか?」
サザエが答えました。「確かに費用は少しかかるけど、お父さんがせっかく遺言を残しても、それが無効になったりもめ事が起きたりするよりずっとよいと思うの。」
波平は深く頷きながら応えました。
「お前たちの話を聞いていると、公正証書遺言のほうが安心だな。よし早速、公証役場で相談してみることにしよう。」
フネは微笑みながら波平に言いました。「それがいいですわ、お父さん。これで家族みんなが安心できる遺言を残せますね。」
波平は机に向かい直りながら、改めて自分の家族を思い浮かべました。
「ワシの遺言が、家族の平和を守る一助になればそれでいい。よし、きちんと準備を進めるとしよう。」
遺言には大きく分けて、①自筆証書遺言、②公正証書遺言の二種類があります(秘密証書遺言もありますが、一般的ではありませんのでここでは説明しません)。この中で、自筆証書遺言は簡単に作成できる反面、避けた方が良い場合が少なくありません。
やってはいけないこと: 自筆証書遺言のリスク
・形式不備で無効になる可能性:法的な形式を満たしていない場合、無効になるリスクがある
・発見されない可能性: 遺言を発見することができず、遺言の存在が無視されることがある
・改ざんや隠蔽のリスク:他の相続人による改ざんや意図的な隠蔽の恐れ。保管場所には注意が必要
・検認手続き等の相続人の負担:自筆証書遺言は相続手続きの際に家庭裁判所での検認手続きが必要で、相続人にとって負担となる
これらの面倒を避けるためには、公証人が作成に関与し、法的に確実な公正証書遺言を選ぶことが推奨されます。

