●トランプ米大統領は相互関税の導入を指示、全貿易相手国の関税や非関税障壁などを調査へ。
●市場にとって即時発動回避は安心材料だが、付加価値税なども調査の対象となり、懸念は残ろう。
●日米株もドル円もレンジ相場だが、貿易相手国の関税引き下げの流れなら市場の懸念は後退へ
トランプ米大統領は相互関税の導入を指示、全貿易相手国の関税や非関税障壁などを調査へ
トランプ米大統領は2月13日、貿易相手国が米国製品に課す輸入関税と同水準まで、米国も相手国製品の輸入関税を引き上げる「相互関税」の導入を指示する文書に署名しました。この文書によると、相互関税の導入は、米国の貿易赤字を削減し、不公正な貿易慣行を是正するためのものであり、導入に向けてすべての貿易相手国を調査するとしています。そのため、日本や欧州連合(EU)も調査対象に含まれることになります。
主な調査項目は図表1の通りで、米国製品に課される関税や付加価値税、非関税障壁、為替レート、市場参入の不公正な制限など、多岐にわたる見通しです。商務長官と通商代表部(USTR)は調査結果を踏まえ、貿易関係の再均衡化を図るための措置を詳細に記した報告書をトランプ氏に提出することになります。米ホワイトハウス高官は同日、記者団に対し、調査期間は国ごとに異なり「数週間から数ヵ月で終わる」との見方を示しました。

市場にとって即時発動回避は安心材料だが、付加価値税なども調査の対象となり、懸念は残ろう
米国は相互関税を導入するにあたり、すべての貿易相手国について多岐にわたる項目を国ごとに調査することになるため、発動まで実際にはかなりの時間を要する見込みです。市場にとって、即時に発動されなかったことはひとまず安心材料ですが、付加価値税や非関税障壁も相互関税の対象となる見通しのため、相対的に付加価値税の高いEUや、ホワイトハウス高官が「構造的な(非関税)障壁が高い」とした日本への影響の懸念は残ります。
13日の米金融市場の動きをみると、ダウ工業株30種平均、S&P500種株価指数、ナスダック総合株価指数はそろって上昇、米10年国債利回りは低下、米ドルは対主要通貨でほぼ全面安(ドル円はドル安・円高)の反応となっています。翌14日の日経平均株価は、取引開始後にやや値を下げたものの、大きな混乱はみられず、やはり即時発動回避の安心感もあり、しばらくは相互関税の動向を見極めたいとの雰囲気が強いように思われます。
日米株もドル円もレンジ相場だが、貿易相手国の関税引き下げの流れなら市場の懸念は後退へ
なお、現時点ではすでに大統領選から約100日が経過しましたが、第1期トランプ政権では税制改革を先に進めた一方、現在の第2期トランプ政権では関税政策を先に進めています。そのため、市場の動きも当時と今とでは異なるものとなっており、第1期トランプ政権では、ダウ平均、日経平均株価とも2ケタ上昇し、ドル円もドル高・円安の動きが顕著にみられました(図表2)。

現在の第2期トランプ政権では、ダウ平均、日経平均とも上昇していますが、レンジ相場となり、ドル円もレンジ内でほぼ変わらずの動きとなっています。ボラティリティ(変動率)は、日米の株価は現在の方が相対的に高く、ドル円は落ち着いています。相互関税は米国経済への影響を考慮しながらの判断になると思われますが、多くの貿易相手国が関税を引き下げる流れとなれば、市場の懸念は徐々に後退していく可能性が高いとみています。
(2025年2月14日)
※当レポートの閲覧にあたっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『トランプ米大統領、相互関税の導入を指示…予想される「市場への影響」について【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフマーケットストラテジスト】』)。
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト