高値で売却できるか否かで「事業の成否」も決まる!?
不動産の世界では、物件を売却することは「出口」と呼ばれ、収益用不動産などでも「出口」における売却戦略が非常に重要とされています。不動産は単価が大きいため、「出口」でうまく高値売却できなければ、それまでの事業で得た利益が吹き飛ぶほどのマイナスが生じることもあるためです。
また、他の商品の場合は誰かが利用すると価値が下がり、リユースの取引価格は新品時より確実に低下します。しかし、土地にはこうした価値の下落がありません。そのため、「出口」でしっかり戦略を立てれば、負債を一気に返済するなどの起死回生が実現できるのです。
経営者にとって事業用不動産の出口は、事業の出口も意味します。「終わり良ければすべて良し」と言いますが、高値で売却できるかどうかで事業の成否が決まると言っても過言ではありません。しっかりとした戦略を練り上げることにより、大切にしてきた事業を納得できる形で締めくくることができます。
ちなみに、辞書では経済活動における「出口戦略」という言葉は左記のように説明されています。
「不況、競争激化などから収益減の見込みとなり、企業が損害の少ないうちに規模を縮小または撤退するための方策。また、投資した株式・債権などを売却して資金を引き上げることをもいう」(小学館『大辞泉』より)
不動産の売却をスムーズに進める「三段階の売値目標」
不動産の売却を進める際には、売値目標は必ずしも必要というわけではありません。売主としては「できるだけ高値」が望ましいのであって、売値目標の確立が重要ではないのです。ただし、五里霧中で進めると考えがまとまりにくいため、その場合、三段階の売値目標を頭に置くと整理がしやすくなります。
仮に3億円の融資を受けて不動産を購入した経営者を例として、売値目標を設定してみましょう。
売値目標①購入価格
購入金額が3億円なら売値目標は3億円になります。「自分が購入した価格なので、そのくらいでは売れるはず」という考えに基づいた非常に現実的な目標の立て方です。ただし、不動産の価格は市況によって変化するため、購入後ある程度の年月が経っている場合には、高すぎたり安すぎたりすることがあります。
また、3億円で売れたからといって収支がゼロになるわけではありません。購入時にも売却時にも仲介手数料や諸費用が発生するためです。仲介手数料だけでも3%かかるので、「買って」「売る」には合計6%(1800万円)の仲介手数料が必要です。
売値目標②残債以上
売主のニーズに即した売値目標です。経営不振で廃業する経営者にとってほとんどの場合、不動産は最後に残された大きな資産です。その後の人生を決める切り札なので、借金を負わずゼロからスタートできるよう「せめて残債以上で売れてほしい」というのは切実な願いと言えます。
市場価格とはまったく無関係なので、残債が大きすぎるケースでは現実離れした売値目標となります。逆に市場価格より低めのケースではスピーディーな判断を後押しする一定の判断基準となることが考えられます。
「とりあえず借金を返済できればいい」と割り切ることができれば、売却における精神的なストレスは大きく軽減されます。
売値目標③できるだけ高値
不動産が持つポテンシャルを活かした高値売却は、すべての売主が掲げるべき目標です。ただし、売却においては売主それぞれに事情があります。早急な負債返済を求められている人なら、一定期間内に売却、清算を終えることが必須になります。そのため、このように「できるだけ高値」という売値目標には「事情が許す限り」という但し書きがつきます。