国内の人材より手間も費用もかかるが…それでも日本の介護施設が「外国人介護人材」を受け入れる“環境”を整えるべきと断言できるワケ

国内の人材より手間も費用もかかるが…それでも日本の介護施設が「外国人介護人材」を受け入れる“環境”を整えるべきと断言できるワケ
(※写真はイメージです/PIXTA)

「外国人介護人材」の受け入れは、人材不足の解消に有効な一手といえます。しかしながら、外国人人材を受け入れたことがない介護施設のほうが多いのが現状です。受け入れが進まない背景には、どのような事情があるのでしょうか。本記事では、社団医療法人啓愛会の理事長である井筒岳氏の著書『グローバル循環型 外国人介護人材活用』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集して、外国人人材受け入れを阻む「3つの壁」と、それでも受け入れるべき理由について解説します。

これからは外国人介護人材の争奪戦になる

外国人を受け入れることへの不安から外国人介護人材の活用にいつまでも二の足を踏んでいては、気づいたときには外国人採用も難しい状態になる可能性も十分に考えられます。

 

というのも、外国人介護人材の確保は年々難易度が上がっており、国内での獲得競争があるだけでなく、ほかの国との間での争奪戦にもなりつつあるからです。

 

今、介護人材の不足が問題となっているのは日本だけではありません。

 

例えば、中国は2035年までに60歳以上の高齢者が4億人を超えて総人口の30%超となり、超高齢社会へ突入すると予想されています。要介護者数は2016年の時点で4,000万人を超えている一方で、介護人材は現時点でも大幅に不足しています。

 

介護の仕事が低賃金であり、仕事がハードであることは中国でも変わらず、若者から敬遠されがちなのは日本と同じです。北京や上海などでは介護サービスに就く若者に「入職奨励金」を支給するなど、さまざまな対策を講じていますが、目立った効果はありません。

 

中国が国内で人材を確保できないために、国を挙げて東南アジアの人材を確保すべく動き出したとしたら、外国人介護人材に日本を選んでもらうのは容易ではありません。

 

高齢化が進む香港は、すでに介護を担う外国人材を確保しようと積極的な姿勢を見せています。香港政府によると、2022年末の香港の総人口に占める65歳以上の比率は21.4%ですが年々上昇を続けており、香港においても介護人材の確保は喫緊の課題です。

 

公的な介護保険制度がない香港では、高齢者の介護を家族や外国人家事労働者が担ってきました。香港では1960年代からの経済発展によって女性の社会進出が進んだことで、外国人家事労働者が多く受け入れられるようになりました。共働きの家庭では、富裕層でなくても外国人家事労働者を雇うことが一般的になっています。

 

これまではフィリピンやインドネシアから外国人家事労働者を多く受け入れてきました。これらの、外国人家事労働者が雇い主の家に住み込みで、家事や育児の延長として介護もしてきたのです。香港の総人口は約730万人ですが、香港で就労する外国人家事労働者は2016年時点で35万人に達しています。

 

香港政府は今後、外国人家事労働者のなかでも介護スキルをもつ人を増やし、高齢化に対応しようと考えています。2018年からは、すでに国内で就労している外国人家事労働者を対象として介護の基本スキルを習得させるプログラムもスタートしました。

 

さらには、これまで受け入れが少なかった国からの受け入れも増やしています。例えば、カンボジアから語学や料理、基本的な介護スキルなどの研修を受けた人の受け入れを始めたり、タイから在宅介護の技術をもつ人を受け入れたりという施策が行われつつあるのです。

 

もはや、外国人介護人材を受け入れるか否かを検討している段階ではありません。外国人介護人材に日本を選んでもらえるように、受け入れ体制をより良くしていかなければならない段階にあるのだといえます。

 

 

井筒 岳

社団医療法人啓愛会

理事長

 

※本連載は、井筒岳氏の著書『グローバル循環型 外国人介護人材活用』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋・再編集したものです。

グローバル循環型 外国人介護人材活用

グローバル循環型 外国人介護人材活用

井筒 岳

幻冬舎

世界の人材を日本へ、日本の介護を世界へ―― 日本の介護人材不足を救う外国人人材の育成と 外国の医療介護レベルを向上させる日本の介護ノウハウの伝授で好循環を生み出せ 超高齢社会に突入して久しく、介護を必要とす…

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