税務調査官が「陳謝」したワケ
調査官たちのクールな表情とは裏腹に、調査自体は和やかな雑談からスタートしました。しかし、Aさんの警戒心が少しずつ解けてきたころ、調査官は遠回しに探り出します。
調査官「旦那さんは地元では有名な経営者でしたよね。相続税の申告書に記載されている財産額について、どうもおかしな点がありまして……。生前の旦那様の所得状況や確定申告内容から鑑みると、少なすぎるように感じるのですが」
すると、「それは、ですね……お話するのはすごく恥ずかしいんですけれど」と、Aさんは伏し目がちに答えます。
Aさん「夫は、ずっと真面目一辺倒で生きてきた反動なのか、晩年はギャンブルにハマってしまいまして……。『お金はあの世に持っていけない』が口癖で、競馬や競艇に出かけては、散財してしまったんです。
『もっと大事に使ったらどう? 私の老後の資金とかも考えてほしいし、そういう使い方は止めてほしい』とは言ったのですが、『自分が稼いだ金を自分で使ってなにが悪い!』 と取り合ってもらえなくて」
調査官「いやいや……それにしてもあまりに少なすぎませんか? ギャンブルや飲食等でここまで財産が減ると思えません。大きな買い物をしていないということであれば、頻繁に引き出されている預金はタンス預金でしょうか? あるいは、誰かに贈与されているのではないですか? 疑っているようで申し訳ないのですが、なにか証明できるものはお持ちでしょうか?」
ここぞとばかりに畳みかける調査官に、Aさんは無言で大きな段ボール箱を差し出しました。中を開けると、大量の馬券や舟券、Bさんが生前つけていた家計簿、飲み屋や高級ワインの領収書がパンパンに詰まっています。
Aさん「主人は昔から変に几帳面なクセがあって、お金の使い道はすべて把握しないと気が済まない人だったんです。子への教育費はもちろん、お歳暮や私へのプレゼントまで、細かく記録するような人でした。ギャンブルの結果はというと、勝つ日もあるのですが、結局負ける日のほうが多かったみたいですね……。
それと、主人はギャンブルにハマる前から、大のワイン好き。高級なワインを仲の良い友人や後輩に振る舞ったり、私たちや社員を連れて豪華な旅行に連れて行ったり、豪快な一面のある人でした」
調査官がAさんから渡された領収書を確認すると、たしかに毎月100万円を超えるギャンブル代の領収書のほか、100万円以上する高級ワインの領収書、その他飲食代や旅行に関する領収書などが確認できました。
調査官「そんな、まさか……こんなことに使っていたとは……確認のためお借りします」
その後、詳細に調査した結果、通帳からのお金の流れと領収書がおおむね一致することが判明。また、一緒に食事や旅行へ行った社員たちからも事実の裏付けがとれたことにより、税務調査は終了。追徴課税は発生しませんでした。
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