(※写真はイメージです/PIXTA)

歴史的な円安局面が続いています。円安は景気への効果が見込めない一方、一般的には、株高が期待できるといわれています。しかし、必ずしもそうならないケースもあるのです。これらの現象について、経済評論家の塚崎公義が解説します。

円安は「景気」には効かないが…

歴史的な円安(ドル高)が続いています。150円という水準自体は高度成長期よりも円高ですが、その間の米国と日本の物価上昇率が異なるので、日本から米国に輸出するときにはいまのほうが有利だ、という意味です。

 

輸出に有利な為替レートならば、輸出が増えて輸出企業が持ち帰ったドルを売るので「ドル安」になりそうな気もしますが、最近の輸出企業は輸出より現地生産に熱心なので、なかなか輸出が増えないのです。その点については拙稿『歴史的な〈ドル高円安〉続くが…「今後は輸出が増え〈ドル安円高〉に」との見通しが危険だといえるワケ【経済評論家が解説】をあわせてご覧いただければ幸いです。

 

ドル高円安になると、輸出企業はドルが高く売れて儲かりますが、儲かった分は株主への配当や銀行への借金返済に使い、あまり賃上げをしないので、景気へのプラスはわずかです。

 

一方で、輸入企業はコスト上昇分を消費者物価に転嫁しますから、懐が寂しくなった消費者は飲みに行く回数を減らします。電気代等の値上がりで飲む回数を減らさざるを得なかった読者も多いことでしょう。

 

アベノミクス以前は、円安になると輸出数量が増えて景気がよくなったものですが、最近では輸出数量が少ししか増えないので、消費の減少によるマイナスと打ち消しあってしまい、景気への影響はプラスマイナス0程度ではないか、と筆者は考えています。その点については拙稿『「昔は〈円高不況〉という言葉があってだな…」令和のいま〈円安〉が景気に効かなくなった納得の理由【経済評論家が解説】をあわせてご覧いただければ幸いです。

輸出企業の利益増は「株価」に直結

輸出企業がドルを高く売って儲けた分は、株主に配当されるか内部留保されます。内部留保が増えれば「あるべき株価」が増えるので、株価が上昇する可能性が高いでしょう。ちなみに、「あるべき株価」というのは一株あたり純資産のことだと考えてよいでしょう。企業が解散するときに株主が受け取れる金額、というイメージです。

 

儲かった分が配当されれば、「あるべき株価」は上がりませんが、株価は上がる場合が多いでしょう。来期以降も多額の配当がもらえそうだ、と考える投資家が買うだろうと思われるからです。

 

美人投票的な要因もありそうです。「皆が上がると思うと皆が買い注文を出すから実際に値上がりする」というわけですね。「ドル高円安だと株価が上がる」と考えている投資家が多いので、円安になると株価が上がります。そうなると、一層多くの投資家が同じことを考えるようになるので、次の円安時も株価が上がる、というわけです。

 

日本で輸出しているのは上場している大企業が多い、という点も重要です。輸出企業の儲けの多くは上場企業の儲けであって、そのまま株価押し上げ要因となるからです。

輸入企業のコスト増は消費者等に転嫁される

輸入企業は、ドルを高く買わされた分を売値に転嫁しますから、実質的には消費者が負担することになり、輸入企業の利益の減少はわずかです。

 

転嫁できなかった分は企業の利益が減りますが、輸入原材料等を使っているのは上場企業に限りませんから、多くの中小企業が消費者と並んで輸入コスト増を負担しているわけです。したがって、上場企業が負担する輸入コスト増はそれほど多くないのです。

 

円安で景気が悪化するなら不況が株価を押し下げる可能性もありますが、上記のように円安の景気への影響は概ねゼロだと筆者は考えているので、それは考えなくてよいでしょう。

極端な円安なら、別の話になってくる

上記のようにドル高円安は、景気は押し上げないけれど株価は押し上げる、ということなのですが、極端な円安ならば株価が下がるかもしれません。極端な円安になれば、輸入物価の上昇がインフレをもたらし、日銀の金融引き締めを招きかねないからです。

 

日銀の金融引き締めは、実体経済に与える効果よりも株価や為替レートに与える効果のほうがはるかに大きくなる傾向があります。僅かな金利上昇ならば、「金利が上がったから設備投資をやめよう」という企業は多くありませんが、「金融引き締めは株安要因だから、金利が上がりそうなら株を売っておこう」と考える投資家は多いからです。

 

したがって、「インフレを抑制するために景気をわざと悪化させよう」ということであれば、かなり大幅な金利引き上げが必要となり、その結果としてかなり大幅な株価の下落が生じる可能性が高いでしょう。

 

中規模の利上げが円高ドル安をもたらし、輸入物価が下落に転じ、景気が悪化する前にインフレが止まる、という可能性もあるでしょう。その場合には、「円安だから株を買おう」という投資家の行動が反転するので、「円高だから株を売ろう」という投資家が増えるかもしれませんね。

 

余談ですが、平成バブルのときには上記と反対に、大幅な円高が株価を押し上げる力が働いていました。大幅な円高で輸入物価が低下し、消費者物価が安定していたので、日銀が引き締めを先送りし、その結果株式投資家が安心して株を買えた、というわけです。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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